ENo.0135　tears drop "heta"

　
　自分の事を一番よく知っているのは、自分である。
　その言葉を否定する気はない。貴方を一番に理解しているのは貴方自身で、僕を一番に理解しているのは僕自身なのだろう。
　しかし、例えば。――そう、例えばの話だ。


―――――　EP 2　――

　閑話休題。僕は僕で在る事が苦手だ。

　挨拶なんて自分の名を告げて、最後に『よろしく』と笑う事しか出来ない。他にはないのかと問われても、首を傾げ何を聞きたいのかと問いを返してしまうのだ。具体的に、何が知りたいのかを言って貰わないと答えようがない。
　……嗚呼。
　そういうのじゃないと云う事は僕でも知っている。こう言ってしまうと貴方達のひとの良さを否定する事になってしまうが、貴方達が本当に求めているのは『親しみやすさ』なんだろう。知らないもの、わからないものは怖いから。少しでも僕の記憶と知識に触れて、僕を認識したい。そして僕の中に"僕を認識した自分"を植え付けたい。
　悪い気はしないよ。部品でしかない僕だ。関心を抱いて貰えるだなんて、僕はなんて幸せな奴なんだろう。しかし苦手なものは苦手だから、僕は僕の事を紹介出来ない。それを十二分に表現する事が、関心を抱いてくれた相手への報いになるのだとしても。僕が僕で在り続ける事など出来ないのだ。

　……例えば。そう、例えばの話だ。
　貴方は確かに貴方なのだろう。貴方を作るのは今迄築き上げてきた記憶と知識、そして貴方を見知る"他"の認識なのだから、実の所貴方そのものなど関係ない。貴方の中で積み上げられた記憶と知識が、貴方を見知る"他"の認識と相違なければ、貴方が貴方でなくとも貴方で在れる。貴方が貴方で在る為の要素に、貴方は含まれていないんだ。
　――さて。貴方は本当に、貴方なのだろうか？


　警笛が鳴り響く。もうそんな時間か。
　誘われるがままに作り上げた部品をどこか顔色の優れない白衣の男に任せて、僕はその場を後にした。

　

数人の研究者と数人の技術者で細々とやっている。
何の研究なのだろうか？