ENo.0147　ナタリー・ナイン

「死ぬかと思った」

　安酒と合成肉のつくね、伸びたパスタを三人前ほど平らげて、私はようやく落ち着いた。なんという美味さだ。料理が文化の礎である事を、これほど感じた事はない。

『いい気分のところ、悪いけれど』

　甘ったるい毒のような、姉妹の声。ため息交じりの疲れが聞こえるが、至福を得ている今の私が動じる道理はどこにもない。

「じゃあ、寝ます」

『ああ、ええ、悪いとはマイクロチップ一枚ほども思ってないの。むしろ、私の食事にまで手をつけてる貴女をベアリングの潤滑剤にしてやりたいぐらいで――』

「うん？　高いですよ、私は」

『――そうね。コストパフォーマンスが悪いわ。分かる？』

「適材適所という訳ですね」

　自らの返答に満足を覚えて、私は一人うなずいた。
ノルノラノーティスは鈍重なウォーハイドラだ。複雑な制御機構は、しかしわざとそうしている部分がある。N3自身のセルフモニタリング機能を発展させるには、高い負荷を掛け続けるしかない。

『資金は大事よ。考えて撃って』

「私は熟慮の代名詞ですよ。実際、辻褄はあってるでしょう？」

『今のところは、という前提がつくけれどもね』

「未来を予測したいと願う貴女の気持ち、分からないでもありません」

『驚いた。貴女にそんな共感ができるだなんて。知らないところで人は育つものね』

「そうでしょう。N3もそうするべきです」

　私は形態端末に表示される情報の羅列に目を落とした。巨大な貨物船、重タンク、来週の霧濃度予想、ストーン・オブ・カース……はたして名前が彼女を表すのだろうか？
　それを知るのは、未来の私であり、Nユニットだ。今、眠気を覚えた私ではない。

「そうだ、寝ましょう。ナタリアもそうしませんか？」

『手伝ってという私のメッセージ、伝わらないかしら？』

「でも、眠いんです」

『ねじ切るわよ』

「はい……」

　私は微笑みかけるベッドに毅然と別れを告げて、ガンルームから転がり出た。

　
《大型貨物船リムファイア》
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全長1,860m。長期の宇宙旅行を想定して作られた大型の飛行船。
艦内はショッピングモールやカジノ、映画館など様々な施設が営業している。
本艦と契約した傭兵はこれらのサービスを有料で利用できるほか、
ウォーハイドラ用のガレージや宿泊施設の提供などの無料サービスも受けられる。
（艦内には傭兵達以外にも普通の乗客やスタッフが数十名存在する）

本艦と契約した傭兵達の仕事は、散発的に船を襲撃してくるジャンクハンター達の撃退である。
ユニオン活動は【射撃+5】、購入は【経験値+1】【AP+10%】などを予定している。

そのほか、契約申請や質問・要望がある場合はENo.117へ投げかけると
本艦のシステム管理をしている人工知能のマグノリアが対応してくれる。