ENo.0281　アビダン

鋼鉄のコロッセオ。巨大な円形の闘技場の中にわらわらとウォーハイドラが流れ込んでくる。ほとんど野次同然の歓声が飛び交う。アビダンはイライラして操縦棺の内側をひとつ蹴飛ばした。なにがコロッセオだよ。ふざけやがって。ああ出るだけ出てやるよ。だからって別になんもしねーけどな。
開戦する。ミストがそこらじゅうで噴出される。アビダンはそのミストに隠れるようにしてできるだけ隅っこに移動しながら、ただ逃げ回った。少なくとも傍目にはそう見えたはずだ。アビダンは、領域殲滅兵器のチャージを開始して、あとはもうとにかくそれが発動するのを待っていたのだった。——結局、発動はしなかったのだが。

赤子の寝台。そう名付けられた領域殲滅兵器をマーケットで見かけて、アビダンは自分のハイドラに積む最初の兵器としてそれを選んだ。特に深く考えず、なんとなく。
ハイドラそのものに興味を持たないアビダンでも、そのジャンク品を拾い集めて売りさばくうちに、自然と相応の知識を得た。だいたいは買取る側の人間のうんちくだとか、粗末な飯屋でのライダー同士の会話だとか、ラジオから流れてくる有名ハイドラメーカーのCMだとか、そんなふうに勝手に耳に入ってくるものばかりで、そうしてその中に領域殲滅兵器の話題はほとんどなかったものの、「チャージが必要な広範囲攻撃」という雑な知識だけはその中にもあった。
アビダンが戦場に出たとして、一対一でまともにやりあうつもりはない。絶対に負ける。そもそも前に出るつもりもない。だったらとにかく障害を誘発して、レーダーから隠れて、それで動かずにいる間に領域殲滅兵器をチャージしておけばそれでいい。いざという時ゃなんとかなるだろ。アビダンの雑なアセンブルは、そんな風にして組まれた。結果は狙いに当たらずも遠からずといったところか。

そうして領域殲滅兵器を不発に終わらせたところで、間髪を入れずに次の任務が言い渡される。テロリスト鎮圧。テロリストねぇ……。それでもアビダンは大した危機感を持っていない。自分は絶対に死なない。そういう風に立ち回る。生きてさえいればそれでいい。大丈夫だ——なにより、次の任務からは僚機がいる。ゴートリンデン。何を考えてるのかいまいち知れない大男。アビダンの狡っからい思惑を知ってか知らずか、僚機申請を受け入れた。そうだよ、おれたちはもう僚機だからな。僚機ってのは違いにサポートしあうもんだろ。おれは後ろで援護するからさ。な？　おれがピンチになったら、助けてくれよな。もちろんおれだって、うまくやるよ。なあ、きっと相性いいと思うんだよ、おれたちは！　——そんな風におべっかを並べて、アビダンは自らのハイドラに乗り込んだ。領域殲滅兵器のチャージメーターが目に入る。けっ、と嘲るようにそれを見下ろす。
なんだっていいんだ。そうして金さえ入って来れば、なんだって。ほんとに素晴らしい職業だよ、ハイドラライダーってやつはさ！

極悪宇宙バイオ兵器養殖所
「がんばりまーす」