ENo.0451　名無し

『無記名の手記』

紙に文字を書くなんていうのは久々だ。
この近辺は見慣れない機械類の技術が発達していて、そういったもので記録を残せるようだが、俺の場合はそもそも記録を残す事自体が久しぶりになる。

どういった気紛れかは分からない。
きっと俺の事だからすぐに飽きて投げ出すだろうがそれでもいい。
どうせ名前を残す訳でもない。書きたいから書くだけだ。


この土地にどうやって来たのかは正直よく覚えていない。
命をなげうつ覚悟で守ってきた国のお偉いさんに勢いだけで噛み付いて追い出された。
別に国に思い入れがあった訳じゃない。
俺を慕って付いてきてくれていた部下には悪いが、アイツらもあの国の異常性に気付いたら各々国を抜け出すだろう。

伝える努力くらいはすべきだったか？
後の祭りか。考えたって仕方が無いな。


何にしろ軍を抜けた俺は、最初は静かな田舎にでも住んで自給自足の平和な生活を送ろうと思っていた。
実際、俺みたいな流れ者を受け入れてくれる村も、確かにあった。

でも駄目だった。
毎晩、うなされながら目が覚める。
激しい爆発の音、強烈な光、掠め飛ぶ弾丸、泥臭い戦い、戦争の記憶。

あの中に身を置かなければ、俺は正気が保てない。
のどかな日々を過ごす程焦燥が募り、遂には耐えられず飛び出した。

後はもうヤケクソだ。
戦場を求めて宛もなくさまよった。
いつしか周りは霧に包まれて、気付けば聞いた事も見たことも無い場所に辿り着いていた。

機械類は縁遠い。
生身で戦わずして何が戦闘か、とも思ったが、廃棄寸前の機体に目がとまった。
無理な戦いにでも投じられていたのか、ボロボロで何も持たないそのハイドラに妙な親近感を感じてしまって、結局ハイドライダーとかいうものになってしまった。


ここは俺の死に場所になるだろうか。

残すものは何も無い。
願わくは華々しい戦火に散れるよう。
俺の満足する死を、このボロボロの棺桶と共に。

うち捨てられた格納庫。
それなりの広さを有するものの雨風を凌げるだけの場所といったところ。
なお隙間風までは防げない模様。