ENo.0316　リビー・ニエロ

　
【『テンペスト：ワン』に捕捉されました。高エネルギー反応】

黒金乱眼の操縦棺内に無機質な音声と緑色のメッセージ、そしてデータ数値が怒涛のように流れ、リビーは鋭く舌打ちした。

「チッ！　クソッタレが！！」

リビーの黒金乱眼は機動力のためにぎりぎりまで装甲を削っている。そんな機体にとってテンペストの放つ高エネルギーのプラズマ砲は恐ろしく重い。

【エネルギー収束を確認。重プラズマ砲、到達まで10,9,8,】
「ブースター設定最大値！　全速上昇！！　回避準備！！」
【上昇開始。回避不能、4,3,】
「対粒子フィールド全開！！　耐えろよ！！！」

凄まじい衝撃が来た。対粒子フィールドが耐久限界を超えて消し飛ぶ。
最低限生命維持に必要な耐衝撃構造を施した操縦棺とパイロットスーツとで守られているとはいえ、その衝撃は大きい。操縦席設備のあちこちに体をぶつけ、一瞬視界がくらむ。二重にぶれる視界を叱咤し、奥歯を噛み締めることで呻きを殺す。目はあえて見開いた。瞼の裏を見ている暇はない。
操縦棺内が赤いアラームの点滅で満たされる。常に流れ続ける緑色のデータとAIからのメッセージ、そして音声が一時乱れ、しかし即時回復した。

【敵重プラズマ砲命中。左背面部第一装甲板融解。第二装甲板損傷。爆雷用操作鞭五番六番七番喪失、八番損傷、作動しません】

耐えた。墜ちなかった。ならばいい。リオの提案で、前回よりも粒子防御を幾らか上げて調整していたおかげだろう。墜ちていなければなんとでもなる。リビーはそう信じている。

「爆雷用操作鞭一番二番三番パージ！！　機体バランス調整は！？」
【可能です】
「っし！！　行くぜ！！！」

黒金乱眼は身を翻し、地上に向かって一直線に駆ける。傷を負ってもまだその動きに陰りはない。損傷による出力低下を部品の切り離しによって補い、機動を維持しながら索敵を再開する。

「……いたな！　墜ちろ！！！」

接近した敵影に対し粒子ブレードで一気に襲い掛かる。鋼をバターのように切り裂いて、そのまま駆け抜けるように離脱する。背後で自走砲が一機、爆発消滅した。


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【『テンペスト：ツー』に捕捉されました】
「なんだと！？！？」

本日二度目の凶報にリビーが叫んだ。

【高エネルギー反応】
「運がねえなあ！！！」
『何故だ！　そっちに行くんじゃない！』

通信に僚機からの悲痛な声が混じる。黒金乱眼がこれほど捕捉されたのは初めてのことだった。こめかみに青筋と汗が同時に浮く。APは25%しか残っていない。被弾すれば確実に撃墜される。

【エネルギー収束を確認。重プラズマ砲、到達まで10,9,8,】
「全速上昇！！　回避準備！！！」
【上昇開始。回避準備、4,3,2,】
「旋回！！　下降！！　全速全開！！！！」
【旋回、下降開始。出力全開。重プラズマ砲、回避成功】
「二発も食らってられるかよ！！！」

ブースターだけでなく二基のエンジンも全開にして、黒金乱眼は弧を描きながら霧を裂き、次いで一瞬の間もなく矢のように空を駆け下りる。そして、地面に到達した瞬間、跳躍した。高く高く機体を維持し、

「よう！！　よくも狙ってくれたな！！　礼に来たぜ！！！」

捕捉した『テンペスト：ツー』目掛けて、放たれた獣のように襲い掛かった。

「喰らえ！！！！」

テンペストの機体に肉薄し、零距離で最大火力を叩きつける。粒子ブレード『星の狼』は深くテンペストを抉り、本日最後の敵機を破壊した。



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黒金乱眼の損傷は甚大だった。特に背面部は装甲の破損が著しく、溶けた部分と抉られた部分、そして切断された鞭の痕がどこか生々しい。しかし作戦完了まで戦闘行為を続行できたことからも分かるように、機動そのものには影響なかった。ガレージまで帰還し、中央の作業スペースに機体を移動させるのもスムーズだった。
その時、ガレージに駆け込んでくる人影があった。リオだ。黒金乱眼の、僚機の状況に絶句している。
ごうん、と操縦棺は開く音がした。
降りてくるリビーを、リオが固唾を飲んで見守る。リビーの顔は青褪め、唇の端が切れていたが、存外しっかりとした足取りで機体から降りると、一歩、歩き出した。

「……っ！！」

ぐらり、と体が揺れ、リビーは蹌踉ながら上体を折り曲げ、吐いた。床に胃液が飛び散る。リビーは搭乗前に固形物を食べない。そのため撒かれたものは薄黄色い液体だけだ。

「リビー！？」

リオの叫び声がガレージに響く。駆け寄ってくる重く硬質な足音。

「大丈夫か！　少し休んだ方が……！」

前かがみになったリビーを支えようと伸ばした腕が、ぐいと押し退けられた。
二、三度咳き込み、最後に血混じりの唾を忌々しげに吐き捨てて、顔を上げた男は、鬼のような形相だった。
押し退けられたリオが迷うように手を伸ばしかけ、引っ込め、そして途方にくれたように床の吐瀉物へ視線を向ける。

「ほっとけ、後で片付ける！！」

口元を手で拭い、リビーは大股で簡易テーブルの側に行くと、据えられているノート型端末の電源を入れ、黒金乱眼から伸びたケーブルを直結で繋いだ。

「リンク！　損害確認！！　整備システム起動！！　オールスキャン！！」

高速でデータのスクロールを始めた端末に向かって叫ぶように音声指示を出す。同時にキーボードも叩き始める。数歩離れたところで立ち尽くすリオに視線だけを向け、

「悪いがリオ、かまってやれねえ。自分のガレージに帰ってろ。ああ、その前に、パーツ屋とジャンク屋に繋ぎつけてくれると助かる。最速で来いって」

そうぶっきらぼうに言い放つと、リビーは画面に目を戻し、何度も舌打ちする。予想以上に破損部位が多い。換装しなければならないものを片端から頭の中で羅列し、整備と調整のスケジュールを立てる。

「わかった、すぐに呼ぶ」

データを睨みつけたままリオの声に浅く頷く。視線は画面に据え、今度はスーツを脱ぎにかかる。指先が胸部保護パーツの端を探ると、ぷしゅ、と空気が通るような音がして、ぴったりと体に沿っていたスーツが緩んだ。がばりと上半身部分を引き下ろし、袖から両腕を引き抜く。ふと、リオが息を呑んだような音がしたが、リビーは気付かなかった。

「何かあったら呼んでくれ」

だから、こう言って自分のガレージに帰って行ったリオがどんな顔をしていたかも、気付かなかった。




（リオにあれだけ援護されながらなんてザマだ）

（リオに、僚機にあれだけ助けられながら俺は一体なにをしている）

（もっと速く、もっと強く、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと）

　

　
　
リビーが『黒金乱眼』を置いている格納ガレージ。
薄暗いガレージの隅には古いマットレスと毛布、多少の荷物が無造作に転がっており、ここで寝起きしているようだ。
　
　
ガレージの中央に鎮座するのは『黒金乱眼』。
機体が置いてある部分はきちんと照明や整備機器、および簡易のテーブルと椅子があるが、それ以外はがらんとしていて薄暗い。
　
　
　
【ユニオン基本】
・格闘上げ＋ロールプレイ舞台。
　情景描写のお供にどうぞ。
　
・参加希望の場合はENo.316までメッセージをいただければ次回更新時に随時許可宣言予定。
　（メッセージ内の最後に【希望】と入れてくださると分かりやすくて助かります）
　未参加のまま、情景を利用したメッセージのみのやりとりも可。
　
【ユニオン活動】
・格闘
　
【ユニオン購入】
・機動力+3%