ENo.0381　ハンナ・コヴァルスカ

ノラという仲介人から入った、最後の音声メール。
ハンナはこれを聞き流すと、ハァッとひとつ息を付いた。

実のところ、ハンナ自身も直接は、重工社自体からこうなることを聞いていたわけではなかった。
しかし自身の置かれた状況と、逐一送ることになっている情報とを踏まえると、こうなることは予見出来ており、そして最も避けたいことの一つであった。
彼女はまた、ハァッと息を付く。

彼女の父親も、企業間での小競り合いで死亡した、とハンナは聞かされている。
正確には彼の所属する部隊が丸ごと、横を突いてきた部隊に全滅させられた、と。
霧の中に、アンテナだらけの大きなハイドラが映っていた、と記録にもあった。

父親は機体もろともそれと付かぬほどに酷く変わり果てた姿で見付かったが、ドックタグにより無事身元が判明し、訃報が母親に伝えられたという。
ハンナはそんなことを思いながら、自分のドックタグを握った。

外からは隔絶されている、不確定な領域。
鉄筋コンクリートで作られた大きめのトーチカで、塗装された白い壁には『ナマズくん』と呼ばれる謎の生物が描いてある。
椅子と机も数個置いてあり、上には筆記用具が置かれる。
トーチカの端にはスプレー缶も並ぶ。

貴方はここが“残像領域”に存在しているものとして認識してもいいし、認識しなくてもいい。