ENo.0261　Solitus

カナエとソーナの一日はラジオの音から始まる。
残像領域に来て間もない頃に発見し、修理したラジオは二人にとって大切な情報源であり、目覚まし時計がわりにも使っているものだ。
カナエがマギカマキナから持ち出した特殊なパーツはこのラジオと上手く噛み合ってくれたようで、朝になると同時に自動的に電源がついてくれる。
珍しく朝早くに目が覚めたソーナはラジオから流れてくるニュースを聞きながら、ふありと大きく欠伸をこぼした。

「…………」

企業連盟の部隊が連日激しい攻撃を加えていること。
しかし依然として戦況は動いていないこと。
ハイドラ大隊が動く時が来たこと。
流れてくるニュースを聞いていると、本当にこの残像領域で戦争が行われているんだという現実がのしかかってくる。
同時に、自分たちもこの戦争に参加しているのだと。
ソーナには戦争がよくわからない。情報も遮断され、隔離され続けてきた自分にはわからないことが多すぎるし、知らないことも多すぎる。
それでも、本来なら戦争は悲しいことであるということは、ぼんやりとだが理解していた。
……そんな甘いことを言っていたら生き残れないのだろうけれど。
届いていた音声メールを再生し、その中身に耳を傾けてから、ソーナは緩く首を振った。

「……ごはん、作るの挑戦してみよう。……テイ、上手く作れたら、喜んでくれるかな」

ここで戦うと、生き残ると決めたのだから迷うようなことは考えないほうがいい。
報酬に飛びついたようなものだけれど、カナエも覚悟を決めているのだから、同乗している自分も覚悟を決めなければならない。
自ら選んで飛び込んだ戦場なのだ、今さら引き返すようなことはしたくないし、おそらくもう引き返すこともできない。

「……テイのお手伝い、頑張らなくちゃね」

踝近くまである長い髪をゆらゆら揺らしながら、増築して作ってもらったキッチンへ向かっていく。
今日の戦場も少し苦労しそうな――漠然とした、そんな思いを抱えながら。