ENo.0176　クロムノート・ウェルサキオン

『かしこまりました』

応答と前後するように、ハッチの開く音が静かな格納庫に響いた。
ハッチの中から現れたのは、際立って特徴のない長髪の若い女が一人。クロムが見る限りでは外見は人間と変わりないが、致命的に目が死んでいる。
悲惨な出来事があったとか、幼少の環境の問題等ではない。そもそも機能が欠けている。
クロム自身の目もまた息絶えているのだろうが、それでも目の前の女に比べればまだ生物の目だろうと思えた。

「……どんな怪物が出てくるのかと思ったら、案外綺麗なのが出てきたじゃねえか」

「ご称賛、感謝します」

とはいえ、クロムにしてみればそれは大して重要視する問題ではない。
対話が可能で、役に立つのであれば人型である必要すらないのだ。

「…契約書でも用意してやろうか。それとも、こいつでいいか？」

こちらに歩み寄ってきた女に、クロムは肩を竦めながら片手を差し出す。
しかし女――シニカはは瞬き一つしない顔でその手を見て、平坦な口調で返した。

「それらが先程あなたの仰った、『殺し合うために殺し合っている』場でどのように役立つのでしょうか。
　わたしはそれらよりも、来たる戦場においての戦果を求めます。『互いに利益を得ている、シンプルな関係』となるために」

なるほど、形だけの慣れ合いも不要かとクロムは内心喜び、差し出した手を戻した。
互いに利益を得るだけのシンプルな関係には、確かにそんなもの何の役にも立ちはしないだろう。
だが、少なくとも自分にとっては収穫があった。

「そうだな。役には立つぜ。少なくとも俺が組もうとする相手が、どういう反応をするヤツなのかはよくわかった。
　仲良しこよしに興味がないどころか、スコアの方を気にする奴なら俺としてもやりやすい。これならまあ、どっちかがくたばるまでは仲良くやれるだろうよ」

「学ばせて頂きました。以降、参考とさせていただきます」

戻される手を見ながら、シニカはそう返す。
元より握手などに未練はなかったクロムはといえば、さて、と目前にあるシニカの機体を改めて確認し。

「アンタのマシンは……見ればわかるな。俺のは軽二脚だ。行く場所だけ合わせりゃ、後は互いにわかるだろうし、わからなくても問題はねえ。俺はアンタだと思った奴に群がる雑魚を叩き殺して、アンタは自分の周りでアンタの敵を排除する奴を適当に補助すりゃいい。
　……ああ、良いね。とても良い。利用し合う関係ってのは、金や信頼なんて薄っぺらいモノよりも圧倒的に信頼できる」

クロムの伝達事項をシニカは頷きをもって了解としたが、最後に漏れたつぶやきに反応した。


「矛盾が認められます。あなたの言う信頼とは、信憑性のあるものでしょうか。ないものでしょうか」

「ああ、なるほど。確かに矛盾してるな。……そうだな。じゃあ、金や絆と言い換えようか。『あなたの事を信頼する』だとか『約束を信じる』だとか。相手は裏切らないって根拠のない信頼の上に重ねる信頼関係。
　そんなモノより、お互いにメリットがある限りは裏切らないって打算の上に成り立つ信頼関係の方が、信用できるだろって話だ。
　信憑性は、あるぜ。あるとも。何せアンタは少なくとも戦場では有能そうだ。なら、俺の側が裏切る事は無いだろうよ」

それは紛れもない真実だった。
シニカに価値がある限り、クロムは裏切る事はない。
この戦場において味方と断言できる相手が1人もいないのは危険だが、だからといって誰でもいいわけではない。
クロムにとってベストパートナーとは無目的に裏切らず、打算的で、交流を好まず――そう。一言で示すなら「機械的」な人物である。その点において、シニカは究極の理想形といっても良い。彼女と同等の条件を備えた人物を見つけるのは困難だろう。


「了解しました。わたしもその意見を支持します。
　そしてそうであるが故に、わたしもあなたを裏切ることはありません。あなたとともに行動することがわたしの生存の助けとなる限りにおいて、それに背いた行動をとることはありません」

「それでいい。俺は戦火を広げるために。アンタは生き残るために。せいぜい、利用価値がある限りは骨の髄まで利用し合うとしよう」

地獄の悪鬼の如き笑みを浮かべるクロムと、眉ひとつ動かさないシニカの表情はあまりにも対照的で――しかしながら、どちらもひどく不吉なものある事には恐らく何の違いもなかった。

戦争！　戦争！　戦争だ！
喜べよ下種畜生ども。地獄のラッパが響いてきたぞ。
俺達が呼ばれている。
多くの血を流すため、多くの命を踏み潰すため、多くの死を広げるために。地獄の戦鬼が。

よう戦友！　アンタが求めるのは血か？　金か？　闘争か？　栄誉か？　はたまた正義なんて求めてるのか？
まあ、いいさ。どれだって。御大層な理由だろうがクソみたいな理由だろうが、やる事も同じなら逝く場所も同じなんだからよ。

どうあれ、ここにいるって事は俺と同じく戦争をより盛り上げたいってイカレ共だ。
死体と涙と恨みと鉄屑を空高く積み上げたいって、死んだら地獄行き間違いなしの畜生共だ。

同じ死体を漁る野良犬同士、せいぜい仲良く分け合っていこうぜ、なあ？

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格闘反応な命が葉っぱ勢のあなたに。
ユニオン活動は格闘×3　反応×2 → 格闘×2　反応×3の順で更新毎に変更していきます。

10人の状態で死亡者が出た場合、また2更新以上行動しない場合は参加許可を外す可能性があります。ご了承ください。

ユニオン購入は何かしら意見あるまでは機動力＋3%を予定しています。