ENo.0338　ドランカー

【2：DRUNKER】
湿気の篭った部屋であった。
湿気と、倦怠感の篭った部屋であった。

必要最低限の家具、錆ついて辛うじて動くラジオ。
そして大量に転がる酒瓶。

どこからか、隙間風が吹く。
それが湿気も倦怠感も吹き飛ばしてくれればいいのだが、生憎と霧を中に入れるばかりで、いつまでたっても居心地は最悪だった。

「チッ……」

部屋の主――ドランカーが舌打ちをする。
それは、劣悪な環境という今更な事にではない。

視線の先には、雑多に放られた札束があった――否、幾度かの戦場があった。


『上々の戦果』

ドランカーの働きはそう評価された。

「何が上々だ……」

吐き捨てる。

今の戦場は、確かに自分が活躍した頃に比べてすべてが高性能だ。
……だが、それだけだ。

どんな良い銃も、結局は持ち手が全てを決める。
相手は戦いなれない素人ばかりだというのに『上々』でしかない自分の衰えに反吐が出る。


――マーカスが義手を都合つけてくれれば。
――ポンコツAIが右腕を補う程であれば。
――この腕を失っていなければ……
――そもそも、


硝子の砕ける音が響く。
酒瓶を投げたまま、男は荒く息と、

「くそったれ」

何かに毒づいて、次の酒瓶を呷った。

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。


（※暫定ユニオンです。消すかどうかは折り見て考えます）