ENo.0066　全くダメなウォーハイドラ乗りの男

『あの女が』。
『死んだってな』。
『馬鹿な奴だ、希望を口にするのは縁起が悪いって教わらなかったのか？』。

　
　“残像領域”の片隅にある寂れた酒場。
　飲んだくれが壁にシミを作りながら寝込んでいる。
　あるいは店名の通り、掲げられたダーツボードに投じ続ける客もいる。
　あるいは三文にも満たない噂を流す客がいる。

　別にどうということのない、単なるクソッタレどもの休憩場だ。
　その気になれば誰かを歓迎するし、誰にも干渉しない空気が流れている。
　時たましゃがれ声や、低くうなだれたような声の雑談が聴こえる。

『――片影町――街で女性の――されま――』。
『遺体は――ノ――ミルさん――』。
『自警団――――』。

　半ばノイズ混じりのラジオから淡々と事件を読み上げる声がする。
　
『近頃は物騒だな』。
『何を今更言ってンのォ？　これからフェスティバルが始まるぜェ？』
『お前、どうせ高みの見物だろ』。
『おっバレたか、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ』。

　誰かが哄笑と共に酒瓶の厚い底を幾度か打ち鳴らす。
　調律の歪んだギターの音色が、それに続いて混沌とした曲を紡ぎ始めていく。
　場は泥酔の宴だ。これから起こる大規模な任務のことなぞ、露も知らぬ存ぜぬと言わんばかりに。

『お前さんの棺桶（ハイドラ）はすばしっこさが売りだってのに？』。
『だからだよ。威力がないのに突っ込むなんざ殺虫灯に突っ込むようなモンだっての』。
『ふーん、そんなもんかねえ』。

　ある男が矢を投げる。真ん中の黒点より僅差、舌打ちと共に刺さらきらず矢は落ちた。

『つかめんどくさい。どうせ後ろから索敵してりゃ、あとはマッドなライダーがヤッてくれるって寸法さ』。
『おこぼれに預かって嬉しいのか？』。
『弾の匂いだけが俺の生きがいでね。撃てりゃあとはどーにでも』。
『それで金を貰えるってンだから羨ましい限りだぜ』。