ENo.0064　タカムラ＝カミツ

act.05
　彼女と会ったのは、偶然ではなく必然であったのかもしれない。
　出会ったのはまだ彼女が少女であり自らが少年であった頃。まだ彼女の父親が亡くなる前の話。お家の話と言えば非常に言葉が悪いが、今思えばもしかしたら婚約者候補でもあったのかもしれない。
　とはいえ、それもすぐになくなったはずだ。彼女に弟ができて、家を継ぐものができたからだ――が、その頃の篁にとってはそういうことはまったく知りようもなかった。
　何せ、出会ったときは年端もいかない子供の姿だ。両親を含めた親の目論見や考えなど、つゆほどもわかるはずがない。今思えば、でまとめるにはずいぶんな話ではあるものの、年を重ねればわかる裏側というものだ、おそらく。
　銀の髪の少女は見た目によらずずいぶんと快活で、まだおとなしい頃であった篁を引っ張り回し、ともすればまるで少年同士のようでもあった。引っ込み思案で人見知りの激しい篁も数回遊べば慣れたのか、よく笑うようになったというのはその様子をよく見ていてくれた兄の話になる。
　小学生を過ぎ、中学を迎えた頃、少しだけ環境が変わった。少女の父親が亡くなった。不倫の末の事故だったと言うのはまことしやかに囁かれた噂であり事実だったのだろう。
　ただ、そこから何かが狂いだした。
　少女はふさぎ込むような姿を見せるようになっていたのを覚えている。ただ、篁の前ではいつも通りであったし、噂が原因だっただろうからと言ってそれを追求できるほど大人でもなかった。篁が選んだのは、普段通りにすることだけで、結果それが理由にもなったかもしれない。
　――それはもう、後悔しかないのだけれど。
（……俺に、何ができただろうか）
　ゆっくりと持ち上がる意識の中、思うのはそればかりだった。自分を引っ張る少女の強さを信じていたのかもしれない。思い出すのはどうしても、暖かい記憶よりとても悲しい記憶ばかりが多くて。確かにこの身には、暖かい記憶も残っているはずなのに。
　記憶と言うのは、暖かいものよりも悲しいものの方がしっかりと覚えているものだという。つまり、そういうことなのだろう。微かな記憶の奥底には、少女と遊んだ記憶が確かに残っているはずなのに。
　彼女とは、最期があまりにも衝撃的過ぎてしまったから。
　手を伸ばし、＜ザイカ＞のコンソールに触れた。耳に届く穏やかな声に顔を上げる。頬に何かが触れたような感覚。目を伏せれば思い出す姿に口元がわずかに笑みを浮かべた。
「――唯架」
　小さく、少女の名を呼んだ。夢の中で、思い出した銀の髪の少女の名を。
「……おまえが、どうしてここにいるんだろうなぁ」
　言っても仕方のないことだとわかっている。それでも、それだけが不思議だった。ここにいるはずがないのに。
「……おまえは、俺の、前で」
　ずきり。頭が痛む。瞼の裏にフラッシュバックする赤。赤。赤。
　ごほりと小さく咳き込んだ。ゆるゆると頭を振る。覚えているのに、思い出せない。思い出すなと、誰かが言っているような気がした。
「……う、ん。もう少し、眠る……」
　ずきずきというよりも、がんがんと殴るような痛みになりつつある頭痛に目を閉じた。
　今度は幸せな夢を見られるように願いながら。

残像領域のとある町の、ひっそりとした町はずれの倉庫街。
ひとりになりたいハイドラ乗りたちがいたり、いなかったり。


------

と、いう設定のユニオンです。
ソロールするもよし、のんびりするもよし。
とりあえず制御と格闘の活動をよこせと言うのでも良し。
そんな適当ユニオン。

【制御3＋格闘2】【機動力＋3％】