ENo.0070　ユリア・クールハート

『ＴＵＲＮ０８：断章・刻む記録、削らるる記憶』

先日『トリグラフ』のシステムチェックをしていたら、データベース内にこのスペースを見つけた。
エルシスは気づいていないらしい。
彼にも感知できないブラックボックス。ここに、私の思うところを記録しておこう。

残像領域に来てから一月半が過ぎた。
この世界が元の世界と違う場所なのか、そもそもどうやって成り立っているのか、いまだ解明できていない。
エルシスは仮説を組み立てているようだが、確信には至っていないようだ。

だが、この世界には確実に生命が息づいていて、様々な勢力が乱立して、世界を掌握しようと腹芸を繰り広げている。
深く知ろうと踏み込めば、消されるのだ。ハイドラライダーを動かす組織だってそうである事は、先日ラジオから流れてきたニュースが証明している。
先日の要塞攻略戦は熾烈だった。こちら側にも結構な死人が出たらしいが、それも上の知るところではないのだろう。
我々は、彼らにとっては、替えの利く駒だ。『テンペスト』に連続で狙われて肝を冷やしたこちらの思いなど、知った事ではないのだ。

とりあえず、孤立する事は危険だと思ってユニオンには所属したが、自分の性格上、積極的に交流を持つ事はしていない。
リーンクラフトミリアサービスの長には世話になっているが、他に言葉を交わしたのは、彼の僚機である事情持ちの少女と、ニゲラ会館の飛行機体乗りくらい。
それも、私ではなく、エルシスが話に応じた結果だ。

私は人づきあいが苦手だ。口下手な事も自認している。
もし、エルシスがいなかったら、生き延びる為に人に声をかける努力すらしないまま、『トリグラフ』の足元で腐り果てていただろう。
戦場でもそうだ。彼のサポートが無ければ、簡単に操縦棺を撃ち抜かれて、この世界の残像になっていたに違いない。

私は弱い。彼に頼らなければ、生きられない程に。
それは、彼と出会ってからずっとそうだ。彼が相方として私を支えてくれた。
彼がいなければ、


「……出会ってから？」

　ふと、キーボードを叩く指を止め、眉間に皺を寄せる。
　エルシスが、情報網を辿って同類（という認識になっているらしい）の派手な髪の青年のもとへ遊びにいっている隙に、電子の海のデッドスペースへ記録をしていたが、疑問が浮かぶ。
　彼と出会ってから、自分はどんな言葉を交わしただろう。どんな戦いをしてきただろう。
　この残像領域に来た当初はもう少し明瞭だったはずの記憶が、古びた壁がぼろぼろ剥がれ落ちてゆくかのように、掬った水が両の指から零れ落ちてゆくかのように、無くなっていっている。
　何故かはわからない。この世界には、今までの常識が通用しない事象が多すぎて、記憶の欠落程度を気にしている猶予など無かった。

「……それでも、おかしいよな」

　独り言を呟き、ファイルを保存して閉じる。
　今度もう一度、彼と話し合ってみよう。そう心に定め、システムを落として、操縦棺を出てゆく。

　誰もいなくなってひっそりと静まり返った、真っ暗な操縦棺の中。
　そこに、ヴ……ンと小さな起動音が発せられ、モニターに明かりが灯る。

「……………」

　そこに現れたのは、どこかで見た誰かに似た、電子色の青年。

「……『トリグラフ』」

　それは、三位一体の神の名。それが意味するところは。

To be continued...

Reinclaft-Millia Service

数年前にできた、残像領域の片隅の整備屋。
相場よりほんの少し高い値段で、ウォーハイドラのみならずライダーも整備する。
早い話が、機体のメンテをしに来るついでに、店主が常々作りすぎる飯のおこぼれにありつける整備屋である。
飯だけの利用も歓迎だが、この店にはメニューはない。店主が作りすぎたその日の飯が出されるだけである。

！店および店主（ENo.4）の既知可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/milliapede/union.html