ENo.0281　アビダン

ジャンク街の路地の一角。汚れの少ないブロックを選んでそこに腰掛け、アビダンは薄手のマーケットカタログを眺めている。
戦闘ではゴートリンデンのサポートに徹しているとはいえ、積みっぱなしの領域殲滅兵器の威力を一度も確認できていないという状態は、アビダンにそれなりのフラストレーションを与えていた。いずれ一発ぶちかますからまぁ見てな、とかなんとか言い放っておいたはいいが、しかし毎度毎度何も出来ずで数週間。技量を見るという名目で僚機を組んでいるゴートリンデンに、これで見切りをつけられてしまっても困る。とはいえ格闘や射撃に手を出すなんて以ての外だし、如何にして自分は戦わずに安全を確保しつつも戦果に貢献するか——そんなことをぼんやり考えていたアビダンだったが、先日バイト先のプリン工場で大量出荷されてゆくバイオプリンを眺めながら、一度くらい試してみるかと思いあたったのが、培養装置だった。
培養装置というのはつまり、ハイドラに接続するとバイオ兵器が産み出され、それが戦闘に参加する——という代物だが、アビダンがそもそもそれを選ばなかったのにも理由がある。アビダンはぬらぬらした生き物が嫌いだった。残像領域のジャンク街で生まれ育ったアビダンは、海を知らない。どころか、美しい湖水や清流も知らない。知っているのは側溝に流れる汚濁した水ばかりで、そこを住処にする生き物には害虫しかいない。バイオ兵器は性質上、その培養装置に満たされた培養液から生まれるものがほとんどだし、アビダンからしてみれば、害虫を飼いならすようなイメージしか湧いてこなくて、どうにも手が出し難かったのだ。バイオ兵器はかわいいという声もちらほら聞こえはしていたが、しかし実際に戦場で見かけるバイオ兵器は、おおよそどれもぬらぬらした触手が生えていて、アビダンの目にはまったくかわいい生き物には見えなかった。しかしまあ、試す価値はなくもない——戦果のためなら。
そうして片手に持った挽肉入りの揚げパンに噛り付きながら、アビダンは上からカタログの詳細を確かめてゆく—— 「語りかけるバイオ兵器」「金を生むガチョウの卵」「オリーブオイル培養槽（？）」「虚無培養槽」「付加、卵ｘ２（おいしい）（？）」……。どれもこれも、やはりピンとはこなかった。となればもう、どれでもいいか。いいやもう、買っちまえ。アビダンは残りの揚げパンを口の中に押し込むと、その包み紙をぐしゃりと丸めて放り棄てる。それから立ち上がってマーケットカタログを尻ポケットに突っ込むと、マーケットに向けて足早に歩き出した。

極悪宇宙バイオ兵器養殖所
「がんばりまーす」