ENo.0345　ミソカ・ヤナガセ

－　Day9　－　　※ENo.255 マヒロ氏のメッセを一部お借りしました。



今日は朝から頭が冴えている。

設計ソフトの画面を睨みながらキーを叩き続け、それを確信している。
トリーギンターに新しく載せる武装のアイデアを黙々と形にしていく。

乗らない時は5本、6本と増えていく灰皿の残骸も2時間ほど前から増えては居ないようだ。


「今日は最高の1日ってヤツですかねぇ」


そんな言葉と共ににんまりと笑みが漏れる。
どう贔屓目に見ても引き篭もり気質のミソカにとって、
設計図に脳内イメージをアウトプットしている時間は至高とも言えるのだ。

睨んだ画面の端には“155mmカノン砲”と書かれている。
遥か昔、榴弾砲とカノン砲は口径で区別されていたが、
現在ではその区別もほぼ名前だけの物になっている。
と言っても、当時の区別もイルカとクジラ程度の物だったようであるが……


「ふぅ……予算さえあればロマン砲も作ってみたいけども……っと！」


保存キーを押して、縮こまって固まった腕と足をゆっくりと伸ばす。
今しがた設計図が完成したカノン砲も、口径155mmと古くから一般的な口径である。
威力は男のロマンと言う思想はミソカにもあるが、
流石に弾薬を全て自家生産出来るわけではないので、ある程度汎用性は必要なのだ。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「……――誰か居るか！」


足を投げ出して背伸びをした体勢でぴたりと硬直する。
ファンの音に紛れて何かが聞こえた、それも人の声だ……。


「ま、まさかぁ……いやいやいやいや」


乾いた笑いを貼り付けたまま、その体勢から動けない。
機械や設計図相手には饒舌になるミソカだが、
対人コミュニケーションは大の苦手……。


（落ち着けミソカ、落ち着こう、そう、大丈夫、大丈夫……）


心の中で自分を応援しながら、取り合えず煙草に火を着ける。


（えぇぇ、あの地図で本当に訪ねてくる人が居るもんなんですね！？）


大概のやり取りが電子化されたこのご時世、訪ねてくる可能性と言えばあの地図。
そう、地図である。対人が苦手なミソカが設計者として可愛いパーツ達への責任を果たす為、
苦悩の末にパーツ仕様書にペラ紙で大雑把な工房の地図だけ添える事にしていたのだ、が……


（よくよく考えれば、電子メールのアドレス載せるだけでよかったのでは？
　そもそも、シャッターに何故モニター設備を設置しなかったのか？せめてインターホンなら？
　余計な経費だから後回しにした？まさかこんなに早く人が訪ねてくるなんて……）


今になって後悔してもお客さんはすぐそこだ。


「はぁぁぁ……」


深呼吸と共に煙を吐き出して覚悟を決める。
ツナギにきちんと腕を通してファスナーを襟元まで上げ、
スリープ状態のモニターを覗き込んで申し訳程度に寝癖が無いかを確認した。


（頼むからシャッターに辿り着くまでに何か言われませんように）


ゆっくりとシャッターに近付き、最後の勇気を振り絞って覗き窓を開ける。
ここまで、声を掛けられてから1分間の出来事であった。


「……俺しか居ませんけど、ク、クレームですか？」

シャッターにそんな紙が張られた工房。
パーツに添付されてるペラ紙の地図を辿るとココに着く。

※基本個人用ユニオンです。もし本当にパーツのご相談・クレームのある方はENo.345まで。