ENo.0493　陶玉

―破棄されたホテルの一室、むき出しになったコンクリ壁に、緑蛍光色の反射光が揺れる。
部屋には煤けた黄色い傘の電球がひとつぶら下がっており、
ときおり、遠雷のように鳴る地響きがするたびに、ぎぃぎぃと音を上げて揺れるのだった。

そんな中に、少年が一人。
空中に浮かび上がる画面を前にし、ソファに身を沈めている。

　 　[*tic-toc　tic-toc*]
　　　 　　[*tic-toc　tic-toc*]
　[*tic-toc　tic-toc*]
　　 　[*cha-ching！*]

「……。」
[欢迎!请指示...]

「…イム、クリスに音声繋いで。通信強度優先。」
[ERROR]　[tao-yu、それはあなたの権限下に存在しない可能性.]
「……じゃあ本社に。テキスト送信でいい。」
[入力に不十分です.]　[tao-yuの座標情報が取得できません.]　[手動入力にて続行？]
「いや、いい。」

「……。」

「時で改善される問題とは思っちゃいなかったけれど、まったく気が滅入る朝の日課ができたものだよ。」
[以下の通信試行を毎時この時間に繰り返しますか？]
「日課ってそういうんじゃ無い…いらないよ。」
「……。」
「あー、いや、そうだな。繰り返してくれ。結果ログだけ上層フォルダの適当なところに蓄積して。」
[設定しました.]

「まったく。遭難者が海岸線で狼煙を焚くみたいな気分だ。ただまあ、あの特撮じみた重機の適性があったお蔭で食うに困らないのは幸い…」
[その例えは不適切だと指摘します.]
「おん？」
[通信試行に失敗した送信データは端末に蓄積されるのみで、第三者が閲覧権限を得る事はありません。]


「……。」
「…………。」
「やかましわ！」