ENo.0281　アビダン

基地内、傭兵たちに充てがわれた格納庫の中。任務から戻ってきたアビダンは、帰りしなにふと振り返り、物言わぬ自身のハイドラをまじまじと見上げた。何度かのアセンブルを経て、当初とはずいぶん見た目も性能も変わってきた。頭や手は早々に取っ払ってしまったし、今やレーダーすら載せていない。剥き出しのミストエンジン、腕の代わりよろしく対に積まれた砲塔、その後ろから伸びる触手じみた太いコード。もはや人型を止めていないそのハイドラは、しかしたしかにアビダンを見下ろしているように見えた——存在しないはずの目、それだけはいくら姿を変えようとずっと変わることのない、気配の視線で。
アビダンはぼんやりと考える——なぜこのハイドラコントロールシステムは、あらゆるパーツをすべからくその身に受け入れるのだろう。ハイドラをハイドラ足らしめるものとは、一体なんなのだろう？　霧。水の匂い。九つの口。受け入れるもの。けれども戦うためのもの——そのように作られたもの。不屈。限りない戦意。死地に赴く……。
考えたところで、結局アビダンには何もわからなかった。ゴートリンデンなら知ってるかな。あるいはマルスなら。まあ機会があれば、聞いてみるか。そうしてアビダンは今一度自身のハイドラに背を向けて、そのまま格納庫を後にした。

極悪宇宙バイオ兵器養殖所
「がんばりまーす」