ENo.0340　NOB3

『大体お兄ちゃんはいっつもそう。閉じこもってばっかで』
『……いいだろ、別に』

　酷く掠れた声が聞こえた。
夢の続きを見ようと、再び寝転がるが、思い通りにいかないのはいつもの事だ。
あれは、いつのことだったか。
故郷を思い出すならば、付属して思い出されるのは当然の如く家族。ひいては、妹。他の家族の事は、砂嵐の先にあるかのように輪郭がぼやけている。

目を覚ますように立ち上がり、自室を歩きだすと視界の端の鏡に映った自分の乱れた赤髪と、陰気な顔。それに皮肉げな笑みを浮かべると、また一つだけ思考の海へ身を投げる。

懐かしい事ばかりだ。過去から今を思えばどうにも相関性がない。なぜこんな戦場に立っているかなんて、分かりやしない。
義肢が間抜けな音を立てる。戦場が激化するにつれ、自らのメンテナンスさえできない程に疲れ果て寝てしまう。
工具を取り出し、歯を食いしばる。
肉体に接続された義肢は、まさしく自分の肉体と言っていい。そう、神経さえも。

「……ん、ッぐ……」

右肩に接続されたそれを取り外す際に感じるのは、痛烈な痛み。だが、それもすでに日常だ。なぜならば、戦いに赴くという事は、この痛みと同義であるからだ。

取り外した義肢を器用にも片手で整備始めると、ふいに思う。
何故自分はこれを学ぼうと思ったのだったか。
大事な事だったような気がする。それも鉄錆と一緒に赤黒く消えてしまったのだろうか。……いや、きっと。自分の肉体の為だったはずだ。では、それはいつだ。

整備の手が止まっていたことに気付き、頭を振ってやめた。大事な事ではある。大事な事であったのだろう。だけど、だが、それがどうした。
感傷に浸るのは、この戦場が終わってからでもいいだろう。他者の生存以上に、自分の命を脅かすものだ。

同種の痛みを耐えながら装着を終え、質素な部屋にしては嫌に目立つかぼちゃのマスクへ目を向け手に取る。

自分はジャック・オー・ランタン。
縋る過去でさえ曖昧な自分はこのマスクの内からは漏れ出さぬよう。ただでさえ臆病な自分は、そうでもしなければきっと、まともじゃいられなくなる。
だから今日も、煉獄を彷徨い続けるのだ。

■ Adolph Flugzeug- und Motorenwerke AG

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