ENo.0328　"Canary"

次のミッションは、霧に消えたはずの部隊を全滅させることだった。
その部隊がいつ消えたどの部隊なのか、企業連盟は語ろうとしない。

《迷いはいらない。幻影が何なのかも気にするな》

メッセージの最後にはこう書かれている。
つまり、何をどう問いかけようと決して答えはしないということだ。

わたしはおそらく、それなりに今に満足している。
けれど、霧の中に散った記憶の欠片を諾々と見逃すほどに、
失った過去が気にならないわけでもない。

"鳥使い"にまつわる噂はいくつか聞いているが、その真偽は怪しいものだった。
そもそも、子供を乗せて戦場を飛ばすこと自体が非効率に思える。
たとえ相応の意義があったとしても、ひとりのライダーの思いつきでできることではない。

それ以上のことを聞こうにも、彼に近しいライダーはともに消えてしまっていた。
利用していた宿や格納庫にも当たったが、既にもぬけのカラだった。

初めからそんなライダーなど存在しなかったというには、
過去のミッションの電子記録、マーケットの人々の記憶など、
多岐にわたる痕跡の説明がつかない。
それも偽装というのなら、そんなことができる存在がいたとしても限られている。

何よりわたし自身の記憶が邪魔をする。
霧の向こうから"帰還"した、始まりの日。

核心的な手がかりはあまりにもなかった――だからこそ企業連盟、
あるいはそれに類する何らかの組織の関与は明らかだった。

今回のミッション、再び現れた部隊が探し求めたものならば――


新しく一通のメッセージが届く。
整備士からパーツ納品の連絡。取引先は登録番号303、insanely。

自分のライセンスを改めて確認する。
登録番号328、ハイドラの名は"Canary"、ライダーの名はリュー。
僚機nanicoを得て、亡くし、新たにnanimaruとバディを組む。
整備士には疎まれつつ、大家にはなにかと世話を焼かれ、
週に一度のペースで戦場に出て、霧の空を飛びまわる。
他のライダーとメッセージを交わすことも、パーツの取引をすることもある。
ごく普通のハイドラライダー、これが今のわたしだ。


霧に覆われた過去と、霧に包まれた現在。
戦場で二兎を追えば命を失う。それも自分の命ならばまだしも、だ。

《迷いはいらない。幻影が何なのかも気にするな》

だから、わたしが見るべきは――

たとえば、帰り道を見失った山中の崖から。
あるいは、あたたかなベッドで不思議な夢を見ながら。
もしくは、道路を走るトラックの前から。

自身が望むと望まざるとにかかわらず、
残存領域に入り込んでしまった子供たち。

彼らのほとんどは身寄りもなく、
何の後ろ盾もないまま霧深い戦場を彷徨う。

彼らが還る場所はもう、霧の中にしかない。