ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

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「…………い、おーい。おーきろーぃ」
澄んだ声が耳にすっと入ってくる
頬をつつく細い指先　男はぼんやりと瞼を開けた

「おはよ」
黒髪がさらりと揺れる　画家は満面の笑みを浮かべた
「……ああ。おはよう」
男は画家の差し出した手に自分の手を合わせて軽く打ち鳴らす
ぱしんと小気味いい音がした



画家は目玉焼きを乗せたトーストをさくさくかじっている
男はその向かい側に座っていかにも体に悪そうな飲料を啜っていた
「トーストあるよ？」
「いや。これでいい」
「そのうち体壊すぞ～～～～～～」
「とっくに壊れてるさ」
画家はホットミルクの入ったマグカップに口をつけた

「今日くーちゃん来るって」
「……何しに来るつもりなんだあいつは」
「しーらね　ヒースハイデちゃんの様子見じゃないの？」
「…………ヒースハイデといえば」
「ん？」
「あいつの新しい乗り手が居てな」
「へえ」
「お前に顔が似てるんだ」
「えっマジで？この残像領域をあまねく照らしちゃう満点の笑顔も！」
「表情は似ても似つかんが」
「なーんだぁ」

残念そうに口を尖らせる画家
男は彼を横目に資料の束を確認する
今までヒースハイデのパイロットとして登録された事のある人物のパーソナルデータ
性格や趣味趣向などもある程度記されている


男は彼らの一部がエリカと同じ特徴を持っている事に気がついた
例えば長い垂れ耳を持った亜人
例えば無類の猫好き（彼は巻き毛の女の伯父であった）
例えば特徴的な口調の若い男性
例えば金銭欲が非常に薄い女性（これは少し無理があるかもしれない）
例えば元引きこもりの少年

無論共通点が特に見出だせない人物のほうが多い
しかし共通点が無いのかエリカにまだ隠れた一面があるのか
それともこの資料に載っていない彼らの特徴と一致しているのかは判別できない
実際資料にある中には食物アレルギー持ちは一人もいない
があまり調査をしていなかった人物の中に居る可能性も否定できない
最も長い期間関わっているエリカについてさえ情報が少ないのと同じように


「珍しいね」
「仕事をしているのが？」
「人間に興味示してんのが」
「……エリカは人間じゃないからなあ」
「まあ確かに？君が世話焼くような子だもんね」

男は画家を二度見した

「そうなのか？」
「あ。いっけね」
画家は目を丸くして口に手を当てる
「……い、いやーね？これはまあ、俺ちゃんの予想みたいな～。あっははは」
「……薄々そうは思っていたが」
「んむむむ……でもこれ以上は何も言わねーっすわ　うん！」

口をジッパーに見立てて閉じるような動きをする画家
男は彼の様子を見て肩をすくめた
そこに扉の開く音　男が視線を上げると部屋の前で女が一礼していた

「技師の方がお越しになりました」
「そうか。今行く」

よっこいしょと呟きながら（無意識）男は席を立つ
ちらりと振り返る　机の上には空の皿と飲みかけのホットミルク
向かいの席には誰も座っていない


「それは片付けておいてくれるか」
「はい…………ホットミルクですか？」
女は不審な顔をする
「牛乳はお嫌いなのでは？」
「ああ。でもまあ、……たまにあるんだ。なかなか寝付けなかった次の朝とかにな」

男は部屋を後にした

*にゃー*





「残像だ。……なんつって、ふふ」