ENo.0053　ディヴェル

『ひっ』
「AIが怯え声を出すんかい」

電子妖精「スピリット」の一声でタブロイドをめくる手を止める。
さすがに音源が無かったので、この子の声はあたしの声をベースとした人口音声だ。
...自分の声でこういう声を、しかも抑揚に乏しい声で聞くのは中々シュールだ。
調声しようかしら。いやそういう問題じゃないか。

『すみません、余計な処理を学習してしまったようです』
「それはいいとして、何かあったの？」
『HCSアップデートに伴い使用可能となったクイックトリガーやスタイル別の行動補正について、未判明部分はあるものの情報をひとまず流したんですよ』
「あれかぁ。大まかには判ったけど、特に射撃姿勢が絡むと荒ぶるんだよね」
『マニュアルから回答が来ました』
「...ひっ」

ハイドラのマニュアルは、もちろん紙媒体などではなく電子媒体だ。
HCSアップデート情報など基本的な情報がここには記載されている。
マニュアルにありがちなうっかり見落としやすい重要な情報が無いか気を配ってはいた、のだけど。

「うわほんとだ、補足されてる」
『補足というより捕捉のほうが正しい気もします』
「一応あたしイタリア人って設定だからな？」

生き残った者達へ。
これから往く者達へ。
私たちは歌おう、今日この日があることを。
私たちは祝おう、今日この身があることを。

全ての生きとし生けるもの達へ。
健やかに、でもなく。末永く、でもなく。
ただただ只管満足な生と、満足な死が迎えられるように。

乾杯。