ENo.0516　如月

　パイロットをデバイス68式丁77号のコンディションチェック。

　生命維持……、規定値を下回る。
　精神安定……、規定値を達成。

　該当デバイスの継続利用を決定。
　損傷部位は修理とする


　…………………………………………。


　企業からのリーク情報は有益かつ貴重だが、ときに怪奇情報に等しいことがある。
　今回は後者だ。
　内容は『硬質ダガーと電磁アックスの強化改良に成功』というもの。

　硬質ダガーは構造からして刀身強度が保ちにくく、打撃力を高められないだけでなく防御においても貧弱な代物だ。
　それを強化改良？
　原理的にありえないが、企業が子供騙しのホラを吹くとも思えない。
　なにかが起きている。
　なんといっても、ここは残像領域だから。

　ダガーはともかくとして、電磁アックスの強化プランについては興味深い。
　裏付けをし、情報が確かなものであれば、アーキテクトに一つ試作させてみるとしよう。
　別口からのリーク情報では、格闘戦用の強化システムの実用化が決まり、近々前線のウォーハイドラにもあらたに導入されるとも聞いている。
　実験機の用意は整いつつある。


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　パイロットデバイスの素体改良プランが提出された。
　提案者は、当然だが生体素体の製造・管理を担う当事者本人だ。

　彼女は白兎から引き抜いた逸材だ。
　いや、引き抜いたという表現は正確ではない。
　若くして生体兵器開発の主導者に登り詰めたこの女性に、私は些細な提案をしただけにすぎない。
　自己完結した使い捨てのバイオ兵器ではなく、人間の代わりにハイドラを操り戦う存在を作らないか、と。

　彼女は二つ返事で引き受けてくれた。
　それを浅慮と疑ったが、結果として杞憂だった。
　彼女は究極的に論理的であり、とても思慮深い人物だ。
　私とは馬が合っただけのことだ。

　その彼女が提案したのは、限界まで無駄を排除することで、生産・運用効率を高めた素体の実用化だ。
　実用化が成れば、すでに人間離れしたデバイスの外観は、さらにヒトではないものへと先鋭化する。
　代価として如月は力を得る。

　プランを手渡しに来た際の、彼女の自身に満ちた表情を思い浮かべる。
　もとより利害は一致している。
　その相乗りの馬車、付き合おうじゃないか。


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　戦闘人格および学習記録をバックアップと照合……、差異無し。
　コンディションチェック。

　生命維持……、正常。
　精神安定……、正常。


　さあ、出撃の時間だ。

残像領域のある場所。
ある都市のうちのひとつ、霧都市。

都市のはずれ、その中にひとつ、霧の中でぼんやりと明かりが灯っている建物が見える。

霧と混じる工房の煙。
ここは、ダガー工房。
ハイドラのためのダガーを造るための人々が集う場所。
硬質ダガーに魅せられた人々が集う場所。

今日もダガーの職人、技術者、お客、全然関係ない人。
いろいろな人物がいろいろな目的で集まっている。

その様子を工房の片隅で、
無口なバーテンが笑顔で見ている。


※説明
・ダガーユニオン
・【訓練】格闘*5　【購入】経験値+1
・雰囲気ユニオン
・片隅にショットバー