ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

エリカは猫をだっこしながらぐったりと横になっていた
抱えられたままの猫はぐるぐると喉を鳴らす
漂う香辛料の匂い　巻き毛の女は技師が持ってきた食材で料理を作っていた
とはいえ食べるのは二人だけだ

「よくこんなスパイス手に入りましたね」
「拾ったんだ」

技師は帽子を脱いでわしゃわしゃと頭を掻いた
炎を宿したような赤い瞳がちらりとエリカを見下ろす

「Erica。生きてる？」
「微妙～～～～～～～～～～」

慣れない行動をとった事によりエリカは疲労していた
しかし疲労の中に感じた確かな手応え
あの策は正解だ　彼はそう感じた
もっとも精神的リソースを要する手なので次の戦場ではいつも通り索敵のみを行う予定ではある
つまりエリカのとり得る行動に選択肢が出来たという事だ

「そういやアップデートとかあったなぁ。把握してる？」
「あー　知らんけど　こないだはちょっと閃いちゃった事とかあったんで？いつもと違う事やってみたっつーか？
　まあそのせいで今死んでる感じなんすわ」
「……なるほどね？　君からするとそうなる訳か」
「？」

エリカは技師の発言に引っかかりを覚えるが　適当に流して消費した精神的リソースを猫で補給する
その手段は代わりに身体的リソースが消費されてしまうと思われるが……
……しばらくするとエリカは咳き込みながらふらふらと操縦棺に戻っていった
完全に予測できていた事態だ
巻き毛の女は微笑ましげにエリカを見送った

「懲りないなあ」
「仕方ないですよ、こんなにかわいいんですから！」
「そだね」
巻き毛の女は猫缶を開ける　猫は巻き毛の女の足元に殺到した
二本足で立って太ももに肉球を押し付ける猫を蹴らないように缶の中身を皿に盛る
技師は口にくわえたスプーンを行儀悪くピコピコする


「成長してんだね」
「……？　猫達がですか？」
「Ericaがさ」

巻き毛の女はヒースハイデの方を振り返る

「それは、まあ。エリカさんももう何回も出撃経験があるんですから。
　戦場で経験した事からハイドラライダーとして、人間として、成長していくのは普通じゃないですか」

……そういう事を言ってるんですよね？と不安そうに確認する巻き毛の女
エリカの反応はない　操縦棺の中でぐったりしているのだと思われる
技師はぱちくりと瞬きし　にひひと意味ありげに笑った

「そっか。そういう事、だといいよなあ」

出された料理をスプーンで掬って口に運ぶ　その表情はとても楽しげだった



「甘っ」
「えっ甘いですか？」
「……ホットソースとかない？」
「ホット……あっ辛いの平気なんですか！？　ごめんなさいちょっと置いてなくて……今度買ってきますね！」
「……ああ、うん。了解。大丈夫。あんがとね」

*にゃー*


*カレー的な匂い*