ENo.0261　Solitus

カナエとソーナがハイドラライダーになってから、今日で16日目。
とうとう下りたバイオスフェアの攻略、そして届いたボイスメール。
ゆっくりした歩調で今日の戦場へ向かうソリトゥスに乗り込んだカナエは、つい最近聞いたばかりのボイスメールの内容を思い出してくつくつと肩を震わせた。

「……わざわざボイスメールを送ってくるなんて、面白い真似してくるよねぇ。ねえソナ？」

隣にいる相棒へ声をかけると、ソーナは目をぱちくりとさせてこちらを向いた。
こてりと首を傾げている辺り、突然声をかけたせいで、いまいち理解ができていないような感じだけれど――別にいい。
ソリトゥスからの景色を眺めながら、カナエはゆるりと目を細め、猫のように笑う。

「ここが俺たちの死に場所、ね。あいにくだけど俺はまだ死にたくはないんだよねぇ」

これはおそらくだけれど、ソーナも同じだろう。
まだ死なない。死ぬわけにはいかない。ソーナと交わした約束が果たされるまで、自分は追手に捕まるわけにもいかないし、死ぬわけにもいかない。
何より、自分自身の死に場所を誰かに決められるというのは、心の底から気に入らない。
自分の死に場所くらい、自分の好きなように決めたいのがカナエの主張だ。

「……あんなボイスメール届いたってことは、多分相当激しい戦闘になるよね、今後。みんなは無事かなー。エスティさんとか、最後に一緒に戦ってから姿を見ないし。ユリさんも、あのおじさんも、無事だといいんだけどなー」
「……わたしも、心配な人、いるけど……。……みんな、無事でいてくれるの、信じよう」
「んー……ま、そうだね。みんな強いんだ、きっと大丈夫」

背もたれに完全に背中を預けていた状態からわずかに起き上がり、見えてきた今日の戦場を真っ直ぐ見つめる。
既に他のウォーハイドラの姿がちらほらと見える。中には一度見たことがある姿もある。
やがて姿を現すであろう今回の敵の姿を思い浮かべながら、カナエは一人、好戦的な笑みを浮かべた。

「――さあて、今日も死ぬんじゃないかって思うくらいのスリルを味あわせてよ」

テーブルには常に自分自身の命をベットしてある。
身を焦がすような、息の根が止まるようなスリルへ、カナエは今日も手を伸ばすのだった。