ENo.0041　天ヶ瀬　澪

わたしは時々、夢を見る。
本当に夢なのかは、分からない。幽霊が夢を見るなんて、聞いたことも無いから。
だけど、いつも『オカミ』の操縦棺の中、じっとして目を閉じてると…勝手に、見えてしまう。

実際の夢の中では、何も見えないし、何も動けない。
でも、ミオがまるで目を閉じてそこにいるみたいに、何かがある。

それは、機械のような何かがカタカタと立てる音。風が遠くの窓を吹き付ける音。
よそよそしい薬品の匂い。やわらかい布団の感触。少し汗ばんだ服の感覚。
それから…目の前に立つ、二人の人間の気配。

* * *

「澪」「澪、元気だった？」

男のひとと女のひとの親しそうな声。聞き慣れた声、たったひとつで分かる。
先生をしているお父さん、いつも村中を駆け回るお母さん。
…『わたしたちを、助けてくれなかったひと』達だ。

── ほんとうに、そう思っていたの？

この夢を見るたび、二人に言葉を返していく。
きっと、聞こえないんだろうけど、じっとしているのは、なんだか嫌だから。

「今日も起きてくれないんだね」
「お願い、目を覚まして…澪」

── 起きないよ。ミオはもう、いないんだよ。

「今だって後悔してるんだ、＊＊も助けてあげられなかったこと」
「＊＊だけじゃなく、あなたまでいなくなったら…私たちは」

── 違う。そんなわけない。ミオは一緒に死んだんだよ。

「いつもずっと一緒だったものね、起きても辛いの…分かってるのかしらね」
「…でもね、二人ともいなくなるのは僕達には耐えられないんだ」

── 違う、違う！そんなのは、嘘…嘘だよ。

水の中でわたしたちが苦しんでいても、助けてくれなかったひとたちだ。
信じない。絶対に信じない。

「＊＊がいなくても、僕たちがいるんだからな」
「そうよ。ねえ、もし起きたら海に行きましょう？二人とも、ずっと行きたがってたものね」
「ああ、僕も休みを取れるようにするから」

── いや、だ。

そんなの、見えすいた嘘だ。
起きるはずなんて、無い。
…わたしだけ生きてるなんて、そんなこと、無い。有り得ない。

「どうか、生きて。澪」
「生きてくれることこそが僕らの希望なんだよ、澪」

── ……！

一瞬、はちきれた何かがわたしを強く動かした。
ドオオンと激しく鳴る轟音は、お父さんとお母さんの声を、掻き消した。

* * *

いつものように、わたしは『オカミ』の中で目を覚ました。
何かをやってしまった気がして機体の外に顔を出すと、思ってた通り、右腕が近くにあった木ごと地面をえぐってしまっていた。

ミオのハイドラは、にひとの家である整備屋さんの裏の、少しだけ離れた場所に置いてある。
だけど…さっきの音で迷惑を掛けたんじゃないか、不安になった。

嫌な、夢だった。
不思議に、現実みたいで、すぐに忘れたいと思った。
でも、忘れられなくて、目を閉じたくもなくて、ここにいたくないとも思って、
わたしは今日も、リーンクラフトミリアサービスの壁をすり抜けて、部屋の中へ飛び込んだ。

Reinclaft-Millia Service

数年前にできた、残像領域の片隅の整備屋。
相場よりほんの少し高い値段で、ウォーハイドラのみならずライダーも整備する。
早い話が、機体のメンテをしに来るついでに、店主が常々作りすぎる飯のおこぼれにありつける整備屋である。
飯だけの利用も歓迎だが、この店にはメニューはない。店主が作りすぎたその日の飯が出されるだけである。

！店および店主（ENo.4）の既知可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/milliapede/union.html