ENo.0261　Solitus

「……テイ、どう？」
「んー。ちょっと時間かかりそうだけど、なんとか直りそうだよ」

バイオスフィア要塞の攻略指示が出た日の朝。
カナエは前回の戦いのときに未確認機からの攻撃を受け、損傷したソリトゥスの修理に駆け回っていた。
いつもはできるだけ敵に見つからないように気をつけながら、索敵をしながら攻撃をする戦い方をするのだが、少しだけ気分を変えてソーナの歌の力を周囲のウォーハイドラにも与えながら索敵と攻撃を両立する戦い方へ変えてみた瞬間、この手痛い一撃だ。
未確認機『エウリプテリダ』のデュアルブレードによる一撃を受けた箇所は大きく引き裂かれており、ぱちぱちと微かな青い閃光がちらついている。
口に工具をくわえ、損傷した箇所の装甲を取り替えながら、カナエは思考を巡らせる。

あのとき、エウリプテリダはまるでこちらに誘われるように近づいてきて、そのまま襲いかかってきた。
エウリプテリダからの襲撃を受ける直前まで、カナエはソーナの歌の力で周囲の支援を続けていた。
機械に働きかけるソーナの歌声はウォーハイドラにも力を与える――そのことはカナエもよくわかっているし、ソリトゥスで証明済みだ。
最近ではどれだけ離れた位置でもソーナが歌えばソリトゥスは彼女の下へ駆けつけることもわかっている。

――もし、ソーナの歌が未確認機たちにも何らかの影響を与えていたのだとしたら？

あのときのエウリプテリダはただソリトゥスの姿を見つけたわけではなく――ソーナの歌に惹かれて近づいてきたのだとしたら？

「――……」
「……テイ？　……どうしたの？　……怖い顔」
「……ううん、なんでもない」

これは、まだ仮定段階だ。はっきりとそうだと決まったわけではない。
決まったわけではないが――可能性はゼロだとは言い切れない。

だって、未確認機もウォーハイドラと同じ『機械』なのだから。

「それよりも、ほら。これで修理は完了。ソナ、ソリトゥスはまだ痛がってる？」
「ん……、……ううん。……痛くないって」
「そっか。それなら安心だ。今日のバイオスフィア要塞攻略もよろしく頼むよー？」

今日の仕事も前回と同じように、ソーナの歌の力を拡散しながら戦う予定だ。
バイオコクーンがどんな動きを見せてくるかわからないけれど、ボイスメールを送ってきた人物はバイオコクーンに相当な自信を持っているようにも感じられた。
きっと、未確認機と同じくらいか――それ以上の戦闘能力を秘めているに違いない。
真新しくなった装甲を撫でながら、カナエはソーナに気づかれないように気をつけながら、一人目を細める。

――用心はしておいたほうがよさそうだ。