ENo.0328　"Canary"

「やってみたらどうカナ」

そう言ったnanimaruの表情は、初めて出会った日の笑顔だった。

次のミッションはバイオスフェア要塞攻略戦。
敵はバイオコクーン、戦力の詳細は分からないが、霊障に関するパーツを用いるという情報はある。
霧は薄めで、電磁波は弱い……しかし電磁波計を過信はできない。

霧が薄いならば、必要以上に索敵に力を入れずとも敵を発見できるだろう。
霊障に対する耐性ならば、nanimaruのような重い機体よりも、わたしのような軽い機体の方が高くなる傾向にある。
nanimaruとの話し合いの中でそれはお互いに理解している。

新しい戦闘システム、コネクト。確かに条件は整っていた。

システムが実用化された段階で導入テストはしている。
敵に加えて味方の状況をより詳細にフォローしなくてはならないため、機体にも乗り手にも負担は大きく、索敵可能範囲は半減し、敵に捕捉されやすくもなる。
霧の中で迷うこと――その恐怖が選択をためらわせていた。これまでは。

nanimaruの笑顔は変わらない。

彼女自身はいつもと同じ戦い方をするつもりでいる。
防御よりも攻撃を優先するため、より速く動けるように機体を組み上げた。
そして不利な相手と分かっていても、彼女は変わらず盾になるだろう。
その彼女に対して、わたしができる最大のサポートは索敵ではなく――

nanimaruの笑顔が意地悪く見えてくる。
彼女は初めから、わたしの返事が決まっていることを知っているのだ。

たとえば、帰り道を見失った山中の崖から。
あるいは、あたたかなベッドで不思議な夢を見ながら。
もしくは、道路を走るトラックの前から。

自身が望むと望まざるとにかかわらず、
残存領域に入り込んでしまった子供たち。

彼らのほとんどは身寄りもなく、
何の後ろ盾もないまま霧深い戦場を彷徨う。

彼らが還る場所はもう、霧の中にしかない。