ENo.0378　フレイド・コークス

「親愛なるフレイド・コークスへ。
　バイオスフェア要塞での活躍はもうこっちにも届いている。
　オマエさんも、僚機のお嬢ちゃんも大金星だってな。

　僚機のお嬢ちゃんの記事も早く書いて寄越せよな。
　今なら、一気に人気が出るぞー！
　こういうのはタイミングが肝心なんだ。

　そうそう、オマエさんに頼まれていた件の定期連携だ。
　今回も碌な当たりは無かった。
　残念だな。
　一応寄せ集めの情報は送っておく。　　　ロギー・オード」

　そのメールが届いたのは、バイオスフェア要塞戦が終わってから約1日ほど経ってからのことだった。

「マメな奴だ。」

　メールに書かれていた通り、今がラキアの記事を載せる絶好の機会なのだろう。
メールの文面や普段の態度はふざけた男だが、こと雑誌編集者としては優秀なのかもしれない。
呆れながらも了承したとの旨の短文を送り返す。

「…そう期待はしていないさ。」

　メールの後半部を眺め見て呟く。
これに関しては元より期待の薄いものである。
ロギーには、私が発見された地域の戦死者及び行方不明者の中から、本来の私…
すなわち フレイド・コークス となる以前の私に結びつくような情報を定期的に伝えるように言っているのだ。
もっとも、私自身が既に幾度も調査をしたし、この残存領域での死亡者・行方不明者の数を考えれば、とても期待できるものではない。

「ん？ 機密コード25…？」

メールに添付された寄せ集めの情報とやらのファイルを開こうとした時に出力されたメッセージは予想外のものだった。

　機密コード25

これはロギーと私との間の通信で特に機密性の高い情報を扱う際に用いる暗号を示している。
ルポ・ライターならば、情報の漏洩は絶対避けるべきだ！
そうロギーに強引に説得させられたものだが、過去にこの暗号を使用したことは僅か2度。
どちらもロギーから送られた通信ファイルで、中身はエロ動画だったのだが。

「……また、嫌がらせか？」

　眉を顰めつつも、念の為にそのファイルを記事を書く際に使用している旧式のハードへと持ち込む。
機密コード25のファイルを開くには、この旧式のネットワーク環境に繋がらない装置を使用せねばならないのだ。

　カタカタカタ……。

　機密コード25の暗号が解除され、一つのファイルがディスプレイに映し出された。
容量は少ない。
少なくとも以前の様なエロ動画ではない。
容量とファイルの形式から察するならば、文書…記事なのだろうか？

………
……
…

「親愛なるフレイド・コークスへ。
　オマエさんの正体に繋がるものでは無いと思うが
　色々と手を回している内に、こんな記事を見つけた。

　オマエさんの正体を知る為にではなく
　オマエさんの運命の為に役立ててほしい。

　この記事を書いたのは、キルスーラ・アンクネイトという割と有名な記者だ。
　オマエさんが発見された地域で十年近く前に亡くなっている。
　この記事は彼の遺品として、奇跡的に見つかった記憶媒体に眠っていた未発表の記事だ。」

…
……
………

サイボーグ医学・ロボット工学の分野で名を売る中堅企業。
高い技術力を有した製品は評判高いが、軍事兵器市場への参入には消極的。
「ありふれた製品を、高品質で。」をモットーに掲げている。