ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「差し当たっての問題は食事かね」
「そうですねぇ……」

巻き毛の女と技師は頭を悩ませていた
エリカが体質的にあらゆる食事を受け付けないのは二人も理解している
それが一般的な人間の振る舞いをエリカに覚えさせる目的の中での大きな問題だ

「んー何？また実験とかしちゃう感じ？　いや俺は別にどうでも構わんけど　得るもん無くね？」
「ごもっともなんだよなあ」

ただ単に食事を与えたところでエリカに無駄な苦痛を味あわせるのみだ
当人はそれほど気にした様子がないのが救いではある
巻き毛の女は考え事をしながら猫に餌をやっている　技師はその様子を横から覗いた


「この餌さ。色違くない？」
「あっ、それは高い餌と安い餌を混ぜてあるんです」
「なるほどね、そしたら安いほうも一緒に食べるからか」
「いえそれが全く食べてくれなくて……」
「何だ」
「やっぱり匂いとかでわかっちゃうみたいで」
「あー、まあ、薬とか飯に混ぜると全然口つけない動物いるよね」

技師は高いほうの餌だけを選んで食べている猫をしげしげと見つめる

「Ericaも何かに混ぜれば勢いで物食べれたりしない？」
「無理じゃね？　てかそもそも何に混ぜりゃいい訳よ」
「無いねぇ混ぜられる物。正直ヒースハイデの操縦棺の中身くらい……で…………」

「……技師さん、何か思いつきました？」
「一応確認したい事ができたかな」



技師はグラスに半分程度注がれた透明な液体をエリカに手渡す
これを飲んだ後に嘔吐してしまうようなら吐瀉物を解析に回したいらしい
エリカは特に文句を付ける事もなく液体を飲み干す
……しばらくしてエリカは案の定咳と共に体調を崩した
謝りながら彼の吐瀉物を確保した巻き毛の女は不審な点に気付く

「透明でサラサラしてる……？」
「ああ。やっぱり？」
「一体エリカさんに何を飲ませたんですか？」
「真水」
「えっ」
「H2O」

解析はその日のうちに終了した　結果を送ってきた女によるとその成分の殆どは真水であったという
そしてヒースハイデの操縦棺の中身も微量含まれていた
それ以外の成分は採取時に混ざったと思われる雑多なもの以外は存在していなかった

「まさか真水だけでアレルギー起こすような性質が記憶されてる訳じゃないだろう」
「それってハイドラに乗れるんでしょうか……」
「どっちにしろオッサンから貰ったヒースハイデの搭乗者リストにそんな例は無かったからなあ。
　つまるところ、そうだね。これは《アレルギー反応を起こす》って性質じゃない訳だ」
「……？」
「体内に入った不純物を処理する仕組みが《未完成》だって事」
「…………！　それじゃあ！」
「理論上誰かをヒースハイデに《喰わせれば》解決できる問題だね。よかったよかった、先は明るいぞ」

*にゃー*