ENo.0568　ここに名前書けばいいんですか？

　
　久々に目を覚ました、らしい。
らしいというのは電子時計に記されたカレンダーからの類推であるからだ。
しばらくぶりのセーフハウスは自分の記憶にあるよりも物が消え、清潔性を保っている。
”狂気”は自分よりも綺麗好きだ。

自分が目覚めている以上、何かをしなければならない。
記憶と現実の情報を噛み合わせるため、ログを漁る。物資がどうなっているのかを確認する。
そして自分が今後やらなければならないことを決める。

　そうして作業に没頭している内に腹が減り、食材に火を通しただけの”栄養”を咀嚼し、消化する。
知らない間に狂気は旋回機動ではなく機動培養に興味を移していたようで、
自分が購入した覚えのない培養装置やアンセトルド・ユニット（アセントルドか？　うろ覚えだ）が用意されていた。
世の中ではコロッセオに沸き、培養型が弱体化していた。
その他に細々とした変化や維持が行われているが、自分にとって珍事があるわけではなかった。
自分のやることが変わらない以上、外界で何が起ころうと些事だった。


　だが月日が経ち、いつまで経っても自分が正気のままであることに愕然とする。
狂気に陥らないで過ごす時間がここまで長引いているのはこうなる以前まで想起しなければならない。
つまりは異常事態だ。正常であるという異常。
この戦争に参加する理由である狂気が自分の中から消えている。
或いは眠っているだけかもしれないが、どちらにせよ事態は変わらなかった。

　自分は正気のままミッションに挑まなければならない。こんな戦場で。

　”狂気”がどこかで笑った気がした。



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・しばらくぶりに思考する。
・・機動旋回が弱体化してから随分経つらしい
・・・狂気はバイオ兵器に興味を示していたが、自分が命を預けるには少々不安だ。
・・・・正気の自分が好む機体を選ばなければならない。
終了

・アンセトルドの効果がやや弱体化していることを確認する（これも少し前だ）。
・・だがアンセトルド自体はあのギルデンロウがコロッセオで使っていたらしい。
・・・培養共々、予備として所持しておく。
・・・・倉庫の整理が杜撰なのは、「ものがいっぱいあってたのしい」くらいだったのだろうか。
・・・・・狂気は掃除が得意だ。或いは、捨て去ることが。
終了

・戦果を稼ぐということについて考える。
・・生き残る上では不要だ。だが生き残る機体は強い機体であり、それらは戦果を稼げる。
・・・攻撃・支援・防御。支援能力と攻撃能力について思考する。
・・・・支援能力。索敵、誘発、エトセトラ。索敵能力を伸ばし、幸いにして優れている機動力で衝撃を叩き込む。
・・・・・またそれらに付随して火力を伸ばすための「速度」を手に入れるべく、跳躍力と車輪力を増やす。
・・・・・・最終的に重量、また武器の火力を選定して『電磁アックス』を選ぶことにした。
終了

・重量の問題や購入枠の問題で導入を見送ったが、今回の戦果次第で電磁アックスに腕か頭をつける。
・・或いは、電磁アックス以外の武器を二刀流にする。
・・・どちらがいいかは分からないが、腕がなくともそれなりに当たるのであれば後者の可能性もある。
・・・・何より電磁アックスは限界駆動を必要としている。その分のエンジンを外せるなら腕でも頭でもつけられる。
・・・・・ただし濃霧状態を継続するのであればやはりエンジンは必要だ。
・・・・・・経過観察
終了

・射撃武器、殲滅領域について。
・・よく分からない。
・・・興味はあるが、大幅なアセンブル変更を必要とする。
・・・・殲滅領域はまた、パーツ枠が少々怪しい。今回の戦果が振るわなければ両検討。
終了










・生き残るだけなら生存優先にすればいい。
・・死亡許容にする理由はあるか？
・・・考えてみる限り、無い。もう少しだけ考える。
・・・・やはり無い。もう少しだけ考える。
・・・・・無い。考える。
・・・・・・多分、ただの意地だ。
終了


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「残像領域には永遠などなく、崩れない壁はなく、消えない灯火もない。ただ覚悟だけが不滅だ」

　どこかの誰かの言葉を、機体の中で呟いてみる。
何の意味もないが、少しだけ気が楽になった気がした。

狂気の沙汰ではなく、自分の覚悟として。
霧の中へと消えていく。