ENo.0629　タデシマ夫妻

鉄臭い部屋だった。
広い格納庫の中、巨大な鉄塊の前で初老の男がしゃがみ込んで作業を行っている。
鉄塊はハイドラ。男は他出島 ショウテツ、元ハイドラ技師だ。

ただ工房を畳んだ今でも、男の在り方は技師のままなのだと、鉄に触れるその手つきが語っていた。
そして技師で在るが故に、己が駆ったハイドラの傷跡を見て、嘆息する。

慣れた整備員なら、戦場から帰ってきたハイドラの状態を見ればライダーの腕前も解る。
弾痕の軌道、どこでどこを庇ったか、関節部の摩耗、ダメージコントロール……ハイドラは多くを語る。
そしてこのハイドラが語るショウテツの腕前は、三流だ。

知識はある。ハイドラの性質も、どう動かせば良いかも、技師としてはわかっている。
だが、実際にその理論通りに動かせるかは別の問題だ。
それにショウテツは老いすぎている。反応速度も、体力も、とても万全とはいい難い。
それでも、この男が戦場に出ようと考える事になったのは――――