ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「服」
「……はい？」
「無い？」

エリカの発言はあまりにも唐突だった

「突然どうしたんですか？」
「いや　正味な話さ　俺普段これしか着てないですし？
　将来的にこう　外に出る用事とかある時に……」

巻き毛の女は膝に乗せた猫の両前足を持ったまま振り返った

「エリカさんが外出を！？」
「将来的にっつったべ　話聞いてます？」

巻き毛の女は猫を吸引しながら心を落ち着ける
エリカは外出を嫌っていた
それ自体は単に引きこもり気質である他にヒースハイデから離れたくない気持ちもあったのだろう
しかしその上彼は衣服を纏う事を快く思わなかった
普段は丈の長い大きな白い服を一枚着ているのみであり　それすらも巻き毛の女の指摘により渋々ながら着用している
自発的に衣服を求める事など今まではなかった

エリカにも羞恥心が芽生えだしたのかと一瞬思ったがそうでもなさそうだ
ひとまず巻き毛の女はエリカに服を与えようと考える


とはいえ今すぐ巻き毛の女が出せるものは自らの着替えくらいであった
女性物の服でもエリカはさほど気にしそうにないが……サイズは合わない
技師の服などもってのほかだ　彼らの身長差は頭一個分はある
新たに服を買うしかなさそうだ　巻き毛の女は端末を起動し男に連絡を入れようとした

……が　その前に一応技師にも知らせておこうと思い直す
案外エリカに合う服の一着や二着持っているかもしれない
技師はやたら色々な物を持っているところがあった　必要な道具がある際技師に言うと大抵その場で貸してくれる
巻き毛の女も何度か彼に助けられていた
しかし技師がマイナーな文房具などを持ち歩いている理由は謎に包まれていた


「服なあ。……オッサンに借りるかね」

流石の技師もサイズの合わない服は持っていないようだ
彼は端末で男へと連絡を入れる

「やあ。あいつの服どうせとっといてあるんだろ？　今取りに行くから出しといてくれない？
　……そりゃEricaに着せるに決まってんだろうよ　ねえ巻き毛ちゃん？」

巻き毛の女は話が読めないながら頷いた

「……は？　いやいや、そんな気軽に抜け出せる立場じゃないだろう君……
　…………マジで？」

そこで男に通信を切られたらしい　技師は何とも言えない表情で巻き毛の女に視線を向けた

「オッサン今から来るって。やんなっちゃうよなあ、こういう時ばっかりフットワーク軽くて」

彼は紛れもなく苦労人の顔をしていた

*にゃー*