ENo.0683　オスカー・ヘンズレイ

　Another day one～ある回想


　普段は最前線での遅延戦闘だの何だのとハズレクジばかりを選ばされる俺達だったが、
今回は正規軍のエース様が進軍なさる花道をお掃除するのとそのお守り役という
まことにもって…………光栄な任務が回ってきた。

　戦線を中盤で援護しつつ撃墜数はエース様にお譲りするだけの簡単なお仕事ですってなもんだが
メリットが無いわけじゃあない。任務にかこつけて豊富な物資補給が受けられるし
何より、メシが美味い。
冷たいレーションのパウチをジェネレーターの排熱口に置いて温めるのはギア部隊の
伝統みたいなもんだが（加減を間違えて消し炭にしちまう奴が出るのも含めて）
正規軍お抱えの給食班が作る温かいメシは、士気を上げることに大いに貢献していると俺は思う。

「よぉ、ごちそうさん。美味いメシのおかげで戦果は上々、こっちもスコアを稼げて万々歳ってやつだ」

　きれいに平らげた食器を見せ付けるように渡すと、赤髪の男はくしゃりと笑みを返した。

「そいつは嬉しいな。ここだけの話、やれもっと肉を多めにしろだの塩が足りないだの
戦闘を前に満腹になると動きが鈍るだのとオーダーが多くてなぁ……こほん。まぁ何だ、
俺に出来ることと言ったら飯を作るだけだからな。ごちそうさん　の言葉は最高の賛辞だよ」

「はは……あんたもある意味戦場の最前線だもんな。……そいつは？」

「これか？広報の取材だか何だかで食事に遅れた英雄サマの為に温めなおして差し上げてるのさ。
軍が広告塔としてﾌﾟｯｼｭする理由もわかる気がするよ……彼もあんたみたくさ、俺の料理に
ごちそうさま　って言ってくれたんだよ。俺チョロいからさ、それだけでころっとファンになっちまったのさ」

「なるほどね……まぁ、気持ちはわからんでもないな。あぁそういえばえっと……俺はオスカーってんだ。あんたは？」

「俺？イスカってんだ。俺の配膳に当たったら肉ひとつおまけしてやるよ」

「そいつは是非とも生き延びなきゃな……じゃあ、よろしく頼まぁ」



　結局、その後あいつの配膳に当たることは無いまま作戦は終了した。
帰還の際にほんの少しだけ会話する機会があったが、今回をもって退役するらしい。
聞けば実家の料理屋を継ぐんだそうだ……肉ひとつおまけの話は俺が店に来る時まで
キャリーオーバーにしてやるよと笑っていた。