ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「あっは、寒い無理死ぬわこれ」

技師は毛布まんじゅうと化していた
エリカも同様の形になっているため大小二つの白い毛布まんじゅうが並ぶこととなる
巻き毛の女も珍しく暖かそうな服を着ている

「どこに行ってたんですか？」
「ちょっと色々とお願いにね」
「お願い？」
「そうそう　いやしかしさーむいこと　暖房効いてる？」
「一応入れてますけどここ広くて天井も高いですし……」
「地獄かな？」
「じゃね？」

技師は（どういう訳か）まだ幼さの残る手をエリカの頬にぴったりと当てる

「うわ冷た」
「極寒の中わざわざ出向いてきたんだからさ。褒めてくれない？」
「はいはい偉い偉い」
「やったー」

巻き毛の女は技師に温かいスープを出した
器の中身はこれでもかという程に真っ赤で元のスープの色がまるでわからない有様だ
一見いじめか罰ゲームかといった感じにも思える

「お。さんきゅ」
「うわグロ画像」
「一口いる？」
「要らねえ……………………」

今のエリカは甘党寄りだ
瓶の中身全部ぶちまけましたとばかりに赤い粉のかかった物体は流石に積極的に口にしようとは思えなかった
一応食べられなくはないがそれとこれとは別問題なのだ



「猫係」
「はーいっ　……あれ？そういえば猫ちゃん達は」
「こん中」
「あっ　ふふ、あったかそうですね」
「めっちゃぽかぽかするわ　超おすすめ」

エリカが毛布を開けてみせると彼の足元に猫がみっちりと詰まって寝ている様子が見て取れた
そのうち二匹ほどは眠そうに顔を上げて巻き毛の女やエリカを見上げたり欠伸をしている
猫団子は再び毛布の中へしまわれる

「何かご用ですか？」
「いや　なんつーの？　たまたま気付いちゃった感じっつーか　あれ　んー
　……ちょい俺の顔見ててくんね？」
「はい……」

前髪を軽く払って額を見せるエリカ　その顔をじっと見つめる巻き毛の女


（……綺麗な顔だなあ）

改めてまじまじと見るとそんな感想がこぼれ出てくる
最初にエリカの姿を見た時は年上の綺麗な大人の男性だと感じ　その仕草にどきどきさせられる事もあった
しかし今では守ってあげたい弟のような存在と感じている
いつからそのように思いはじめたかは定かではない
呼び方や応対はもう慣れてしまった上なんだかしっくりくるので変えてはいないが
巻き毛の女の瞳に宿る色は家族愛とも呼べるものだった

……エリカの白い睫毛がさわりと動く
瞬きを数度　何か難しい事を考えているかのように口元に少し力が入る
そして……　彼は僅かに眉をひそめ　《嫌そうな表情》を浮かべて見せた

「！　！　！」
「どう？」
「えっ、あ、エリカさん！！　技師さん！！！」
「見てたから落ち着きなって。スープご馳走様」
「あっはい、それより今のっ」
「頑張れば若干表情筋仕事する感じ？　無意識にはまだ無理なんですけどもー
　とりま顔作れるだけ進歩したっしょ」
「すごいですよエリカさん！　今日はプラムケーキ作ってあげますね！！」
「やったーおねえちゃんだいすき」


「笑顔じゃないんだね。Erica」
「……作りやすいのは圧倒的にそっちなんすけど　何つーの……やだみ？」
「やだのか」
「俺は俺ですし？　キャラ的にそこまで似合う訳じゃないんでーって感じよ」
「ああ。そうだね　そういうもんか」
「ん」
「……今度見せてくれない？」
「今度な」
「よし言質取った」

*にゃー*

「話はつけてきた」
『そうか。感謝する』
「あんまり面倒な事しないでほしいね。何考えてんのか知らないけど」
『お前の面倒さには劣るさ』
「あは。オッサンそれ本気で言ってる？」
『本気だとも。何か問題でも？』
「殴るよ」
『その小さい拳でか？』
「ご冗談を。的に乗るに決まってんだろうよ」
『おおこわいこわい』
「……はーあ、本当に頼むからな。オッサン」
『ああ。悪いようにはしないさ』