ENo.0574　言語魔術師アリューカ

　残像領域は霧に包まれている。その霧は、どこからやってきたのか。
　答えを知る者たちはもう居ない。

　残像領域には霊障が跋扈している。その力は、どこに向かうのか。
　答えを知っていても、タダで教えてくれる奴は居ない。

　だから、アリューカは10000c（いちまんクレジット）を払う。
　貯めてきたそれを、惜しげもなく一つのパーツに注ぎ込む。
　
　全てはこの時のため。
　霊障のために。

「……作製依頼、ね。本当にいいのか？」通信の先、言外に響くのは、ほんの僅かな驚きの声。

　その機微を感じ取って、アリューカは答える。

「うん。insanelyのことは信頼している――いい人そうって意味じゃなくて、こと取引においては、ね。
　その紹介だというなら、信じるさ」

「極力その名前で呼ぶのは控えてくれ。その名前はその額じゃ動かない。
　まあいい……大隊登録番号551、登録名Snow White……正確にはそれの管理者と連絡が取れた。
　手数料込みで依頼料は10000c。それで問題ないそうだ。君の依頼品は製作され、マーケットに出回るだろう。
　で。その後はどうなるんだ？」

　同じ霊障屋としての興味、なのだろう。アリューカは答える。

「超巨大霊障『ワールドポータル』。それは単体では発動しない。
　残像領域にこの表現があるかは知らないが、こいつは複数が組み合わさって『魔方陣』を形成するものなんだ。
　
　そのパーツは単体でも、魅力的で、強い。
　維持するのは容易じゃないが、まるきり無理ってわけでもない。
　
　だから購入者は、それを知らずに、あるいはそれを知りつつも、躊躇いなくパーツを購入するだろう」

「それで……君が言うところの霊障が強化され、発動に至る、か」

「そう。僕はこう解釈している――『この世界がついた嘘』――霊障が起こるんだ。超巨大なやつが。
　僕が『ワールドポータル』と呼ぶ、残像領域と異世界を繋ぐ架け橋が、ほんの僅かな間だけ、開く。
　オッティアと一緒に、懐かしい故郷に帰るのさ」

「『この世界がついた嘘』、ね。面白い解釈だ。
　……はっきり言って俺は理論については明るくない。成果についての確証はまるで無い。
　あくまで君の構想を具現化するだけだ……だからこそ聞くが。その解釈が外れていたら？」

「別に、死にはしないさ。そいつの維持費として有り金全部、30000cほど吹っ飛ぶだけだ」

「なるほどね。博打の代償が金で済むなら大いに結構。
　……依頼料の2割ばかりを別途こちらに回してくれ。回収の見込みが無い以上、”仕事”として手数料はいただく」

　リーは全く木で鼻を括ったような調子で対価を請求した。アリューカも真顔で振り込みを行う。
　これは貸し借り無しのビジネスだ。そして、ビジネスの相手として、リーは決して悪い相手ではない。

「……確かに。承った。最大限努力しよう」

　返事は届かなかった。コンソールに煌めく2000cの送金と同時に、通信は切断されていた。

　通信機の電源は落とされ、アリューカの周囲を禅めいた闇が包み込む。

「いつだって、僕は本気だよ」

　アリューカはオッティア・ザ・ライアーのコックピットの中で、静かに息を吸い、そして吐いた。

■説明
　霧の中、残像領域にうっかり紛れ込んでしまった異世界の人専用のユニオンです。
　ユニオン活動は格闘*5です。ユニオン購入は素材+1ですが、柔軟に対応したいです。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

　警告 警告 警告 警告 警告 警告 警告 警告

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

……るか……えるか……聞こえるか……
……今……私は……世界を超えて語りかけている……
……元の世界……異世界に故郷を持つ者たちよ……
……集まれ……集うのだ……帰還……めに……

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

　ワールドクラッキングを検知しました。
　逆探。対象を特定。シャットダウンします。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


「青空を見たのは、何時のことだったか」
「夕焼けを見たのも、だいぶ前になるねえ」

そんなことを呟いても、得られるものなど、何もないというのに。
自称＜訪問者＞たちは集い、情報交換し、切磋琢磨し続ける。

霧の果てにあるものが、故郷よりも大切なものかもしれないと思い始めたとき、
その瞬間に大義名分は朽ち果て、残像領域こそが真実＜リアル＞なのだと気付くのだろう。

デイドリームビリーバーは死ぬ。でも、せめてそれまでは。