ENo.0338　ドランカー

【15：Poor】

珍しく――いや、異常に――晴れた空。
ガレージに明るいBGMが流れる。

それは、正しく平和な――

「おい」

――平和は、怒気を孕んだ声に打ち砕かれた。


声をかけられたハイドラ、正しくはそれに搭載されたAIのMARYはいつもと変わらない、無機質な合成音声で応じる。

《はい なんでしょうか マスター》

それが男の気に障ったのか、壁を叩きとうとう怒鳴った。

「なんでしょうか、じゃねぇよ！
備蓄も考えずにパーツ買いやがって、おかげで素手で戦場にいくハメになったじゃねぇか！
素手で何しろってんだ！？」

しかし、怒鳴られたAIは、やはりいつもと変わらない無機質な反応である。
……中身はその限りではなかったが。

《陽気 な 空 の 下 は タップダンス が お勧め です》

「バラすぞこのポンコツ」

男の拳が震えだしたのは、きっとアルコール依存症によるものだけではないだろう。

《しかし マスター》

「ああ？」

《そこまで 酒 を 飲まなければ 足りた のです》

「オーケー、マーカスにお別れのメールを入れろ」


――銃声とミストエンジンの轟音。
そんな物騒な音も、晴れ渡る空の下では平和に響いた。恐らく。

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。