ENo.0378　フレイド・コークス

　私が父の死の真相を知ったのは、母が死んだ後の事である。
母の遺品を整理していた際に、父の遺書を見つけたのだ。
レイヤー・アズデルドは遺書も残さず自死を遂げた、そう世間ではそうなっている。
しかし、実際には遺書は残されていた。

　母は自死した父の遺書を見つけ、それを隠すことを決心した。
遺書とは言うものの、読んでみれば支離滅裂な点も多い怪しげなものだった。
科学者として名を馳せた父をよく知る母ならば、それが明らかに異常なものだと悟っただろう。
レンド社による洗脳、それに抗った末の父の死だった。

　母はそれを警察に知らせることも無く隠匿した。
全ては私が父の死、そしてレンド社に関わらぬようにする為であろう。
遺書で父もそれを望んでいた。
母自身から遺書について聞いたことは無いので推測しか出来ないのだが、その推測は間違っていないだろうと思える。

結局、母の死後その隠された遺書を見つけた私は、父と母の想いを裏切りレンド社に怒りの刃を向けた。
その結果が今の状況であり、結果的にはレンド社…もとい、アウラ社の連中に復讐は果たせたものの、偶発的な要素が多過ぎる。
まともに考えれば、無謀なことだったのだろう。

　フーヴァー・アズデルトの記憶は失われた訳ではない。
ただ、人格を構成する主たる記憶がフレイド・コークスのものになり、それを私自身が善しとしているだけだ。

　父と母から送られたフーヴァー・アズデルトという名前を名乗らないことは、もしかしたら申し訳ないことなのかもしれない。
だが、フレイド・コークスという短い期間で身につけた記憶と名前を用いることに後悔はない。
私が取り戻したかったものは記憶であり、名前ではなく。
父と母、そしてフーヴァーの記憶も捨て去るわけではない。
ただ、今はフレイド・コークスとして生きようと決意した。

サイボーグ医学・ロボット工学の分野で名を売る中堅企業。
高い技術力を有した製品は評判高いが、軍事兵器市場への参入には消極的。
「ありふれた製品を、高品質で。」をモットーに掲げている。