ENo.0109　エンセイル・フェノメノン

「おぉ、見えてきた見えてきた」
残像領域北部、遺跡。5年ぶりにかかったハイドラ大隊の招集に選ばれた少女が一人。
「霧、電磁波、懐かしいなあ」
いや、少女だった。5年の月日は、少女にも容赦なく降りかかる。
禁忌戦争から5年。この女性――エンセイルにとっては、少女でなくなるには十分過ぎる時間だった。
「スポンサー、どこがいいかなあ」
スポンサーについて記された紙をぺらぺらとめくり、思案しているような言い方をしてはいるが、その実、どこを選ぶかは事前におおよそ決まってはいた。

白兎生体科学……パス。メルサリアがいたなら選んだかもしれないが、メルサリアがいない今となっては、特に選ぶ積極的理由もない。

シルウェストリス航空……パス。あんまり気が合わない。気分屋としては、付き合いは最小限に留めておきたい。

マテリアルベルト発動機……パス。禁忌戦争のときは名前を聞かなかった。最近の企業だろうか？ 消極的選択肢には悠々と入るが、他に選びたい勢力がある。

コロッセオ・レギュレータ社……パス。コロッセオが嫌いなわけではないが、コロッセオに足繁く通うよりは、遺跡探索の方が心が躍るタイプだ。

「まあ、決まってるよね」
ヒルコ教団。エンセイルが決めたスポンサーはこの怪しげな教団だった。5年前にともに戦った今代のヒルコは未だ健在のようだし、支援パーツもなかなか好みに合う。
「いやあ、楽しみだなあ」
昔焦がれ、今また焦がれる、霧の戦場へ。

エンセイルの友人であるミソラが店主を務めている古書店