ENo.0130　かもめの亡霊『モーヴェ』

今日も巨木の森にガラクタをばらまく。

「なあメーヴェ。オレ、そろそろここに来て5年になんだ」

最初は見守っていたはずの変な花も、今では高く高く伸びてオレは見守られる側になり。
どれがメーヴェだったのか、数年前に見失ってしまった。

だからこれは森にゴミをばら撒いているのではなく、かつてしてくれたように、『お供え物』をしているに過ぎない。
だって数撃ちゃ当たるだろ。焼夷機関砲みたいに。

「お前、どーせ整備の腕鈍ってんだろ？オレが抜かしちゃうぜ！なんて、ハハハ。5年もありゃ抜かせるか！」

だってここしばらく退屈だったもんな。
退屈がてらにハイドラのパーツを集めて、少しずつ組み立てて来たんだ。

「どこで見てんだか知らねーけど、見てろよ、オレは絶対に…彼女”アイツ”と一緒に、お前を超えるからな、

クソ兄貴！」


……………

自分の家___正直衣食住が要らないから普通の人間から見たら家じゃなくてなんか瓦礫の山____ に戻って来た。

「ただいま」

経年劣化と限界駆動で負荷がかかりすぎ、パーツの一部が溶けたエンジンの残骸の上を飛んで越えて、オレは彼女に挨拶する。

多数のオールのうち一本が、ピクリと動いて、オレに答えた気がする。

「なあ、聞いてくれよ。ハイドラ大隊が、また召集されるってよ。なんか今にも死にそうな顔のやつと契約したんだ」

とっておいた白い布に描いたエンブレムは、今日も霧に紛れて霞んであまり見えない。
そんな中でも船体の横につけたイカしたデュアルブレードは、鋭く光っていた。

「そうなりゃ、結構な金が入るはずだ。義体を買えるくらいの… 貴女”オマエ”と一緒なら、まあ長くかかるかもしれねーけどよ……オレ、3回目の人生始められそうだぜ。」
「紛い物なのは分かっちゃいるけど、どうせこの先何千年と生きる…生きる？言い方はなんでもいーんだよ。とにかく今後ヒマなんだよ。別にいいよな？そんな夢みたって。クソ兄貴に一泡吹かせてえし」

脚部を『オール』に置換した、三段櫂船型ハイドラ『サラミス』は答えない。戦闘時サポートはできても、喋るほど高等なAIは持ち合わせていない。

オレはきっと、この全長20mはある巨大な船に、

何かを重ね合わせて、話しかけていたんだろう。


……………

5年も経つと、知らないハイドラも増える。
様々な境遇、きっかけから銀色のライセンスと9つの首を持った兵器と生死を共にする奴が、増える。
その分減るとは限らない。（お前らの）戦果の取り分が減らなきゃいいけどな…

今度、戦闘シミュレーションを行うらしいけどよ。どんなに霧が深くてもこんなふざけた形のハイドラなんか今までに見たことあるかよ…ってヤツも何人かいるらしい。オレ正直ワクワクする。

そんなことを考えながら、サラミスの最終調整運転をしていた時だ。

目の前を横切る、四角い影。

つるつると四角くて長く、窓がいくつもある。無数の車輪を動かして走り回るやつ。
武器はスピアだ。四角い箱からユニコーンのツノが生えたみたいに伸びている。

あんな見たことのないハイドラを飛ぶように走らせるライダーの顔はどんな顔をしてんのかと。オレは正面の一番大きな窓に目を凝らし、索敵の感度も上げる。
敵になるか味方になるか、今後どっちであれ知り合いは多いほうがいいからな。


「…あ」

両腕に翼のある男の子だ。

「どうして」

背丈を見るとどうやらオレと同じくらいの年頃らしい。
何か帽子をかぶっている。

霧で掠れて見えない。
オレの目も霞んで見えない。

「なんで、なあ、生きてたのか？5年も何やってんだよ、オレを置いて？嘘だろ、なんとか言えよ」

呆然と呟いているうちにあいつが行ってしまいそうになる。



オレは通信機に手をかけて、無い喉が枯れるくらい叫んだ。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」