ENo.0200　コルヴス・コラクス

　――本当は、今頃とっくに終わっているはずの、物語だった。
　
　そう、『ボク』は認識している。
　実際のところ『俺』や『私』はとっくに霧の海に葬って、原型の『ボク』だってもういない。
　けれど、未だにボクはボクであり続けていて、……いや、あり続けることを「選んで」、ここにいる。
　今日も残像領域は何一つ変わらない。今やボクの目には何も映らないけれど、巨大な樹の枝が揺れる音や、緑の気配を含んだ風の香り。それから、ボクを導くそのひとの手の温かさは、はっきりと認識することができる。そして、そんな日々がずっと続くと、思っていた。
　思って、いたんだ。
　
　北からもたらされた報せ。
　それは……、ボクがもう一度操縦棺に収まるには十分すぎる理由だった。
　結局のところボクの魂魄は「操る」ことを求めている。どうあがいたって自由にならないこの肉体をひと時忘れて、求める機能のみに特化した「それ」を操ることに、何よりもの悦びを覚えるのだ。
　彼女もそれを理解してくれているからだろう。ボクを止めはしなかった。
　――戦場では、死なない。
　ただそれだけの約束と共に、ボクはもう一度地を蹴る。
　レーダーを通して、ここ数年忘れていたはずの「視界」が広がり、ボクの知らない新たな世界を映し出す。
　
　さあ、往こう、『コルヴス・コラクス』。
　それはボクを抱くウォーハイドラの名であり。
　
　ボク自身の、名前でもある。
　
　
【Sequel:01 コルヴス・コラクス】

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