ENo.0032　メーネ・フライス

新しいライダースーツに袖を通す。
ほとんどティッシュペーパーみたいな薄さのこのスーツを最初に見た時は、何の冗談かと思ったものだ。
しかし、実際のところ、このスーツの性能は恐ろしく良い。
身体にぴったりとフィットしていながら、驚くほどスルスルと着ることができる。
ラバーや革のようなギチギチ感が微塵も無い。よく伸縮するスエードかタオル地かといった着心地だ。
一度着用してしまえば、着ていることすら忘れそうになる。
5年前の禁忌戦争で着用したものは「コストカット版」だった為、手足の部分は重く分厚い素材だったが、
今回のスーツは全部位が新素材でできており、恐ろしく軽くもる。
蒸れず、汗をかいてもいつの間にか吸収されており、貼りつかずに着脱が容易。本当に魔法の素材のようだ。

それでいて、防御力も堅牢。
高い運動エネルギーの物体が接触したり、極小範囲に強い力がかかったりすると瞬時に硬化し、着用者を守る。
ダイラタンシーとかいうモノの応用だそうだ。

更に、着用者のバイタルサインや視線を常にモニターしており、ハイドラの操縦支援にも使うことができる。
例えば、残弾数を確認しようと視線を動かすと、残弾が少なかった場合にはリロードの予備動作に入ってくれたりするし、
完全にパニック状態に陥れば自動で鎮静剤を投与してくれたりする。

そんな非常に優秀なスーツではあるのだが、やはり――やはり、どうしても気になるのが――


メーネ「……このデザインよね……。本当この…エロスーツめ…。新型化の際にもうちょっとどうにかならなかったの…？」

整備班「ああ…いや…何か…創業者の理念と言うかポリシーと言うか…。”巨大ロボットの操縦者はピッチリスーツでないとダメ”だそうです…」

メーネ「逮捕されてしまえ腐れセクハラ創業者！！」

整備班「ぶっちゃけ、当社製品の中ではぶっちぎりのオーパーツなんですよねそれ。多分ハイドラ開発より金と時間かかってます。
ただただピッチリスーツを実現するためだけにあらゆる新素材の開発に手を出し、単一素材で無理なら複合素材に、それでも無理なら機械素子を編み込み、更には”液体を固着化”する技術を発明し…と、情熱と言うかもはや執念レベルです。実はそのスーツの薄くて黒い部分、液体だとか…」

メーネ「なにそれ怖い。ああだから妙に着心地いいクセにフィットしてるのかしら…。でもなんでそこまでしてピッチリスーツ着せたがるの…」

整備班「分かりません…。なんででしょうね…」

メーネ「……って言うか、男性もこのスーツなのよね、ここ……」

整備班「………はい………」

そんな恥ずかしいスーツなのだが、5年前の禁忌戦争が終わる直前くらいにはもうすっかり慣れてしまっていて、
作戦終了後は着替えるのも面倒でこのままの格好で食堂に行ったり、近所の商店まで行ったりしてしまっていた。
食堂はまだ良いが、外ではすごい驚かれた。


メーネ「…無自覚の露出狂になったりしないか心配だわ…」

整備班「まあ…心配しているうちは大丈夫でしょう……多分………」

@@@「さあ　元気に　撃ちまくり　です。　憂さ晴らし　も　兼ねて」
（射撃５　素材＋１）

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緩い空調にむき出しのコンクリートと配線。

人間用の火器練習用の的がやや離れた場所に見える。

人数分のイスが用意され、それ以外は壁際に積まれている。

軋む扉を二枚抜ければ、ただ広い荒野と、いくつか点在したジャンクで出来た的。

戦場のジャンクが一時的に集められる場所のすぐ近く。練習にそれらを吹き飛ばせば、幾らか使えるものくらいは見つかるだろう。