ENo.0146　フレースヴェルカ

霧の中、ただ突き進む。

銃を持ち、刃を持ち、各々の命を預けたハイドラに乗って。

私たちはただ進む。

たとえその先が地獄の大釜であったとしても。

「次からが本番、だそうですよ。今回がサービスだからという事で。それで、乗り心地はいかがでしたか」
「身体がバラバラになるかと思った」

座ってハイドラを見上げていた所に、あの女性はやってきた。わざわざ乗り心地を聞いてきたから、そう答えた。なにせ、実際そう思いながらぶん回してたから。
確かに究極と言われるほどのものだったし、よくわからない技術がたくさん搭載されていたのもわかった。けれど、負担が尋常じゃなかった。
姿を消し、相手の目の前で現れ、辻斬りのように斬り、そしてまた消える。相手から見れば、夜霧の殺人鬼を思いださせるような行為だっただろう。だけれど、それくらいやらないと死ぬ場所で有り、その上でとんでもないほどの崖っぷちを駆け抜ける羽目になるのがわかった。

――実際。降りた直後なんか、真面目に歩けないくらい。

「んー。私的な感想いりますか」
「いらない」

はっきり言おう。
これは、『棺桶』だ。
それも、周りを巻き込むとんでもない。

「――では。私は聞きます」
「どーぞ」

彼女は私の目の前に立つ。
改めてみると、彼女は表情らしい表情を浮かべていなかった。
無表情、なのだろう。

「ここからは誰でもない、貴方が生きるための道を決めます。その先に有る何もかもを破壊し尽くすつもりでないと、生きて帰る事は難しいでしょう。先の一戦でわかったかと思います。なので。『貴方の機体』を用意しましょう。その手間は、私が代わりにしますので」

つまり。
乗せる武装も、何もかも、自分で決めろ。そう、言ったのだ。

「……わたしシロートだよ？」
「機体性能だけで生きて帰れるとでも？」

機体性能やデータだけで帰れるのであれば、ハイドラ乗りはいない。それ以外の何かをもって、ハイドラ乗りなのだ。
少なくとも、わたし以外は。そういうものなんじゃないかな、と思った。

「わかった。お手上げ。ちょっと時間頂戴」
「はい。まぁ、もともと貴方が積んでるものは得体のしれない兵器なのですが」

自分でもそう思うよ。本当に。

「わたしの背中は、彼に守ってもらうから。後はまっすぐ飛ぶだけで」
「花火係ですね。たまや」
「そういう不吉な事言わないでくれるかなー」

生きて帰るつもり。でも。それで、どうにかなるかどうかなんて、わからない。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」