ENo.0237　ルート・ロックサイド

「ルート、来週の誕生日は皆で食事しましょう。
　プレゼントも楽しみにしていてね。」

　古ぼけた通信機器に残された母からの短いメール文。
このメッセージを最後に母は、そして父もこの世を去った。
ハイドラのライダーだった両親は同じ戦場で共に戦い、同じ戦場で散った。
ボク一人を残して。

　暗いハイドラ機の倉庫でボクは明日の出陣を思う。
幾度もシミュレートはして来た、ハイドラに乗るのも初めてなんかじゃない。
それでも、かつて両親が戦ったハイドラ同士の戦争…企業と言う得体のしれない存在の利益に直結した本気の戦いだと思うと、どうしようもない恐怖がある。

「最初の数回かな、それさえ過ぎちまえば大丈夫だよ。慣れるんだ。」

　ボクにハイドラの操縦を教えたあるベテランパイロットはそう言った。
本当だろうか？
…本当なのだろう。

　父も母もボクに対しハイドラに乗ることに対しての恐怖や不安を見せなかった。
子どもの前だから虚勢を張っていた…そういう面も少しは有ったかもしれないが、やはり二人は慣れていたのだろう。
ハイドラに乗ることに、そしてハイドラで命を賭けて戦うことに。

　ボクの両親は有名なハイドラライダーだった。
稼ぎも良かった様でボクは割と豊かな暮らしをして来た。
両親の死後も保険やら何やらで経済的な苦労は少なかっただろう。
だから、ボクは自分を不幸だなんて思わない。

「それでも、ボクはハイドラライダーなんてクソだと思うよ。父さん、母さん。」

　でも、今。
ボクはそのハイドラライダーだ。
そう思うと自分で自分を笑うしかない。

父と母を討ったハイドラライダーは暫くの間、戦場に姿を現していない。
きっと、過去の栄光を汚すことなく勝ち逃げする心算なのだろう。

でも。

過去は過去へどんどん時間は流れて行く。
5年前の戦乱の名声などすぐに廃れて行くだろう。
だとすれば、アイツは焦って再び戦場に姿を現すかもしれない。

…その時は、ボクが勝つ。勝ってロックサイドの名を思い知らせてやる。

フブキ・ライダー斡旋商会

　企業とライダー間の契約を仲介することで利益を上げる比較的大手の契約仲介企業。
前身は『サインス人材派遣機構』
5年前の戦乱後、程なくして名前を改めると共に業績を伸ばしてきた。

　企業の需要を満たすライダーの頭数を迅速に集める為、ライダーを欲する企業側の評判は悪くない。
ライダーを斡旋した企業からの謝礼がフブキの主な収益源である。

一方で競合企業からは『倫理が存在しない企業』と陰口を叩かれている。
理由としては、仲介するライダーが犯罪者として指名手配中の人間であろうと、年齢が一桁であろうとも構わず仲介する為である。
ライダー側が最低限の必要な書類さえ出せばOKなのである。

尚、ライダー側には、前述の誰でも簡単契約可能、仲介料と称して過分な手数料を搾取されない、余計な手間である企業との契約調整をフブキが代行するなど評判は悪くない。