ENo.0291　I-Doll

5年振りの残像領域。
5年振りのウォーハイドラ。
5年振りの戦場。
……結果は散々なものであった。
撃墜され、5年前には経験する事のなかったマシン・オーバーロードが発動した。
制御を受け付けず、勝手に暴れていた分身――Doll――が限界を迎え、沈黙する。
静かとなった操縦棺の中、彼女――I――は鉄の喉から溜息のような音を発した。

『ハハ！ずいぶんと男前になったじゃないか？え？』

回復した通信回路から、楽しげな声が聞こえてくる。
それに対してIは特に怒りもせず、苦笑を含んだような声色で返事をした。

「ええ。全く……いくら当時とは真逆のスタイルになったからって、こんな姿を晒すとはね……」

『平和ボケしたかい？』

「……かもしれない」

『いいじゃないか、平和ボケ。戦う事しか出来なかったアンタが平和ボケしたとあっちゃあ、あの子は喜ぶだろうさ』

『…………そうね』

誰よりも平和ボケが似合っていただろう。
己とは違い、平和となった社会に溶け込んでいただろう。
死してもなお手を差し伸べてくれた姿を思い出し、ポツリと呟いた。

『……だから戻ってきたんだろう？戦火を広げないために』

「ええ……アルラウネが燃えるような事があれば、私は……」

『なら、早く戻って修理するよ。これから本格的に遺跡調査が始まるんだからね』

「分かった」

『素直でよろしい』

通信が切れる。
早く戻る、とは言ってもIの分身であるDollは自力で動く事が出来ないため、迎えが来るまで待つ事しか出来ないのだが。
1週間後には本格的に北の遺跡調査が始まる。
謎の機体。
消えた部隊。
そして、遺跡の奥に眠ると言うドゥルガーの素体。



何も起こらないはずがない。
いや、既に起こっているのだろう。
じわじわと、確実に。



近付いてくる駆動音に耳を傾けながら、セクション1へと想いを馳せた。

全天候型移動式工房『Glorious Junk』――通称『GJ』
その名の通り、どんな悪路をも物ともせずに進んでいく移動式巨大工房である。
要塞じみた外見。重量級ウォーハイドラ『I-Doll』を収納しても余裕のある格納庫。
個室も十分にあるため、住居に困るハイドラライダーは相談してみてはいかがだろう。
家賃はそれなりに取る方だが、機体が大破してもすぐに修復に取り掛かれる環境。
個室全てにシャワーが付いている他にも、ボスご自慢の大浴場がある。
食堂にはこれまたボスが引き抜いたシェフ達が居り、十分満足感が得られるだろう。

*射撃特化ユニオンです
*ユニオン購入は現在素材＋1となっています