ENo.0176　カヴネル・レビン

水上では、まさに地獄のような戦闘が繰り広げられていた。
鳴り止まないミサイルアラート。魔導フレアを撒き散らしながらローリングするオレの相棒。
そしてチームの誰かのおかげだろうか、オレの周囲に展開された氷の盾。
戦場は目まぐるしくその景色を変えながら、オレたちに牙を剥く。

だがオレだって負けてない。
手動操縦からリンク操縦へ――魔力を通して精神を接続することによって、相棒『ライトニング』はオレの思考と同調して動くようになったのだ。
この世界に落ちてから久しく失われていたが、この度の生体手術による調整・適応によって再び蘇ったものだ。
遺跡を満たしているひんやりとした空気が、疑似感覚を通して伝わってくる。
宙返り、エルロン・ロール、インメルマンターン。いける。

そう確信した時だった。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ誰かの声に釣られ、オレはデバステイターを見た。

釘付けになってしまった。
神々しいとも、禍々しいとも取れる、輝きを放つ光の輪を。

なんなんだ、あれは。

うああぁぁぁぁーーーッ！？

輪にぶつかってしまった。神経の速度でも間に合わなかった。
身体を内側からぐちゃぐちゃにされるような感覚が直接オレを襲った。
リンク操縦のデメリットだ。機体のダメージが疑似感覚によって痛覚に変換され、それがパイロットに伝わってしまう。
肉体が直接傷つくことはないが、あまりの痛みに気絶してしまうことすらある。

う、うぐ、かはっ…。

悶えてる場合じゃない。すぐに第二波が来るだろう。
次も直撃してしまえばもう終わりだというのに。体勢がなかなか戻らない。

くるりくるりと、空中で無様にもがいているうちに、光の輪が再び迫り――そこでオレの意識はいったん途絶えた。



…あれから何分、何時間経った？
ハッチを開けた途端、埃っぽい空気がコックピットに入り、オレは咳き込んだ。

あれほど騒がしかった遺跡の空間は、今や静寂で満ちていた。
誰もいない。なぜ？　オレは回収され損ねたのか？

まずいな…。

そう言って救援要請を送ろうとした、その時だった。

静かな遺跡に、ひとつだけたたずむ人影。目を凝らしてみると、それはオレによく似ていた。
違うところを挙げるとすれば、整備用の作業着にキャスケット、そしてゴーグルを身に着けているというところか。

間違いない。




トロバ…？

トロバ・レビン。オレの双子の兄貴だった。

でも、ありえない。こんなところにいるはずがない。
それにあの時、トロバは確かにオレの目の前で…。
頭が下した冷静な判断を気にも留めず、身体は勝手に走り出した。

トロバ！　待ってくれ！

トロバはオレに何も語りかけることなく、霧の向こうへと消えていった。
追おうとしたオレの足は不意にもつれて転び、頭をしたたか打ち付け――

目を覚ましたオレは、救護室のベッドから派手に転がり落ちていた。
こぼした涙は、額の痛みのせいだけじゃなかった。

飾り気のない格納庫。その奥には、黄色い機械仕掛けの竜が佇んでいるという。

格納庫はだだっ広く、まだまだ他のハイドラも入れそうだ。
拠点として利用したいなら、ここの所有者に申し出てみるのもいいだろう。

看板には次のように書かれている。

ここを拠点とする者は、以下の恩恵を受けることができる。
・訓練は基本的に制御のみだ。
・購入は主に追加素材、または機動力強化が中心だ。
・ブックメイクは原則行わない。

オーナー：Eno176