ENo.0459　下村里美

「残像の『下村瘡子E』はいかがでしたか」
「この戦果だと先行きは怪しいな。やはりクイックドライブも濃霧領域もないのが痛い」
「デバステイター・アルラウネ・アイリスによる補助は？」
「エンサイクロペディア・フラグメントはコントロールできない。長い目で見れば機能することもあるだろうが、結局のところほとんどすべての戦場は一回勝負だ」
「お気をつけて」
「結局先週の被弾はなかった。領域離脱の反動で装甲は相当削られたが……本来整備能力というのはこういう時に使うものなんだ」
「『下村瘡子E』は整備能力を生かせていなかったと？」
「そう言っているわけじゃない。ミサイルの頃は良かった。だが結局のところ彼女がきちんとした戦果を出せたのはミサイルがあった時代だけだったのも事実だ」
「どうすればよかったとお考えですか」
「セクション戦をやればよかった」
「彼女はコロッセオのチャンピオンを目指していたのでは？」
「違う。彼女は英雄になりたかった。戦争をしたかったんだよ」
「彼女は結局のところ遺跡探索には参戦しませんでした」
「彼女の世界はひどく小さくてみじめだ。禁忌戦争以外に彼女は戦争のモデルケースを持たない。コロッセオランキングも結果論だ。彼女の戦果も偶然の産物だ。彼女には自己肯定がない。手に入ることがないものを数えるのが彼女のやり方だ」
「手厳しい」
「憧れはアセンブルに大切な感情だ。でも、その憧れが崇拝や信仰に変わってはいけない。アセンブルとは夢に手を伸ばすことだからだ。組みあがらない機体を欲望することだからだ。ウォーハイドラは夢を見ることで強くなる。もっと大きな、ここにないものを欲望すること、それを自分の指先で組み立てられると信じること……それがアセンブルの力だ」
「『下村瘡子E』はそれを知っていたのですか？」
「ウォーハイドラに乗りたいと言ったときに彼女には話した。でも覚えていたかどうかはわからない。そもそもそうしたポジティブな感情を先行きに対して彼女が持てていたのかさえ。彼女の第一義は生体電池研究の被験体だったのだからね。けれどそれをあまりに言い聞かせすぎたところはある」
「下村計画がこうした形に落ち着くとは予想外でした」
「まだ終わっていない。この遺跡でできることにけりがついてしまったというだけだ。生体電池はウォーハイドラに必ず必要な機能になる。ウォーハイドラはあの出力こそがアセンブルを妨げる最大のネックなんだ。未来のウォーハイドラは生体電池ひとつで動くようになる。下村計画がそれを作る。公園も銅像も必要ない。圧倒的なエンジン、圧倒的なエネルギーこそがアセンブルを解決するんだ。……」