「はいっ、上がり。
　良いじゃない、燃えるみたいな真っ赤な髪！
　ガキみたいな顔も締まって見えるよ」

白かった地毛を真っ赤に染めて、
鏡に映った童顔の口もとをきゅっと結ぶ。
１７の夏、傭兵志望のミロにとっては元服じみた心持ちだった。

「こんなヤクザな仕事さあ、やめろって言うのに。
　ミロの言い出したら頑固なとこ、お爺ちゃんそっくり」

「おふくろだって人の事いえないじゃんか」

言い返されて、マリーもからからと笑い
自分のゴーグルを、息子の額にあてがって
喝入れのついでに、ぎゅっと結んだ。

「これで、３代目誕生か。
　あたしもよーやっと引退できるよ。はー、さっぱりした！！
　ほら、行くんだろ。お爺ちゃんに挨拶してきな」

ミロは何か言おうとして、ふと油断するとなんだか涙をこぼしてしまいそうだったので、ぐっと息を喉につめてそのまま一息に仏間へ駆け込んだ。

マリーは、息子の後ろ姿をしばらく見送って、
馴染みの相手に電話を掛けた。

「もしもし、アンナ？
　あたし。うん。
　ミロが今日そっちへ行くよ。

　…ふふ。そうだね。
　大丈夫だよ、スパルタで。あたしの子だもん！

　うん。ありがとう。
　…アンナ、似てきたよね。あの人に。
　え？
　やだな、褒めてるの！
　あはは！」


ミロは、線香に使ったライターで、そのまま慣れない煙草に火をつける。
仏間には、毎年いろんなところから届く花やら菓子やら、それと大量の松茸に囲まれて、祖父の遺影が飾られている。
写真の中の祖父は、年に似つかない筋骨逞しい肉体に、お気に入りの機関砲を下げ
幼いミロを腕に抱え、白髭を踊らせて豪快に笑っている。

「爺ちゃん、行くよ」

呟くミロに、祖父の爛々と輝く瞳が、生前の彼の言葉を思い出させた。

『ミロ。お前はおれの孫だ。
　お前は強い。
　何があろうと、いつもどおりにやりゃあいい。
　
　どんなに追い詰められようが。
　黄金の一手が閃いて、最後の最後にお前が勝つ。
　どんな、くそったれた今日よりも。くそったれた明日よりも…』

「…おれの方が、強い！」

何か、背中を蹴飛ばされたような気がして、ミロは弾けるように玄関を飛び出した。

「アクタガワーーーーッ！！！」

ミロの声に答えるようにして、巨大なハイドラが、キャタピラを踊らせて走ってくる。
キャタピラを、腕を、肩を跳ね飛んで操縦棺に滑り込んだミロは、そのままアクセルを思い切り踏み込む。

「アクタガワ。
　爺ちゃんも、おふくろも、どういう風に世界を見たのかな？

　たくさん、凄いやつが居るんだろ。見てきたんだろ。
　おれ、怖いけど。
　怖いけどでも。嬉しいんだ、すごく…！」

「行こう、アクタガワ！
　おれが、お前をもう１回、撃墜王にするッ！！」

夏のオガミ山に、一本の直線を描くようにして、若い魂がまた一人、無頼無法の世界へ飛び込んでいった。

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産まれたかッ！！！
男！？男かッ！！マリーッ！！マリーお前ッちくしょうッよくやったッ！！！
見ろッこの眼！！傑物の眼だ、大した奴だッくそッ、お前に、おれにそッくりだッ！！

何、名前！！？？
何で、このッボケッッなんでそういう事を俺に任すんだお前、それでも旦那か、バカ野郎ッ！！
…いや待て。
20年前、マリーがもし男子だったら、つけようと思ってた名前がある。

ミロだ。
こいつはミロ。
強い子のミロだ！

おいッ笑ったぞッ！！見ただろ今笑った！！
嬉しいか！ミロ！！
わははは！！
おいマリー、ママに見せたのか！？まだ！！？？バカッおいッ早く呼んでこいお前が行くんだよッ！
ママーーーッ！！ミロだァ！！ミロが産まれたぞォ！！！

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