神経束とナノマシンが馴染むまでのじくじくと焼けるような痛みを鎮痛消炎薬で和らげながら、再びベッドの上に転がっている。
術後経過観察としてはまだまだ時間が必要だが、現在は重篤な障害は見受けられず、信号伝達にも支障なし。結局、彼女のおかげでまた生き残れたらしい。
改めて、また一人増えた命の恩人に通信を送る。
「…金使った経験が少ないもんでね。それが充分な対価かはわかりかねるが、とりあえず端数を除いた全額だ。君が、俺の命を繋ぐまでの間に稼いだ全てだ。あとは君が言ったように、得た技術…トラブルの種になっちまうかもわからんやつだが。」
こちらといえば、先の任務で当面の薬物や弾薬を買うには余りある資金を受け取り、彼女のおかげで戦場で金を稼ぐには充分過ぎる自身の分身を受け取っている。
「俺も、言いたいから言わせてもらうよ。ありがとう。…なあ、これから君はどうするんだい？契約は今日を最後に切れちゃうけれど、まだ修行を続けるのかい？」
彼女が得たのは資金と技術。元々天才と嘯く彼女には格好の材料でもあり、身を滅ぼすに足る爆薬にもなる。それで彼女が何を為すか…というより、単純に彼女の行く末にだけ興味があった。
「俺？ああ、生まれて初めて急を迫られずに、自分で行き先を選べるからな。思うように…ここで見つけた、気の利いたやつのとこで暴力が必要な仕事をもらえないかな…と思ってる。」


状況は大して変わってはいない。未だにカワサキの技術と俺の肉片は公には未踏の領域に等しく、出所が割れてる以上素性を隠したところで追われる身であることは当分変わらないだろう。
だが、少なくとも明日は繋がった。彼女からもらった明日は、自分の意志で左右できる。ここで出会った人々とも、また日々を交えることもできる。
そうして、彼女と戦った日々を思い出し、初めて自分から頼った彼女の言葉を思い出し、目を閉じて問い直した。

「ふくりん、君に欠けていたものは…埋まったかい…？」

俺の答えは決まっている。途絶えかけていた明日と、再び誰かと共に生きる日々。


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「…ああ、もちろん損はさせないよ。お互い、いい感じにならないかい？」


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霧と戦火が立ち込める戦場で、半ばから倒壊した高層建造物と夥しい新品のスクラップに囲まれて白いウォーハイドラが立っている。
深呼吸するように全身の装甲が波打ち、硝煙と機械油の芳香に目を細めるように頭部の装甲が窄まる。
不可思議な力で霧と煙が周囲へと押し流され、顔を上げたハイドラが跳躍、建造物を蹴り飛ばし瞬く間に上空へと跳び上がっていく。
巨大なブースターが背面から露出し、光の帯を吐き出して彼方へと飛んでいった。
或いは、また別の戦場へと。或いは、帰るべき居場所へと。