霧95　電磁波32　昨日とあまり変わらなかった

・幽霊戦闘機相手に苦戦した　というか攻撃が当たらなかった
　→実態のないものを倒せって酷すぎるだろ
・明日は初めて危険度4に挑む　ので、色々アセンブルを変えよう
　→メモ：エクスプロイトの停止、レーダーの付け替え、パイルをフレイルに換装
　→メモその2：出かける前にパーツ作製依頼のメール

----------

　休暇日、ベティはアリーナの前で古い友達を待っていた。
「フジ、久し振り。あれから何年も経ったけど変わりないみたいだね」
　声をかけた――フジと呼ばれた――人物は色白の肌に艶やかな黒の長髪を兼ね揃えた、線の細い女だった。21歳とベティより若いが、軽く立っているだけでも大人びた雰囲気が漂っている。だが、表情や些細な動きからはまだまだ子供らしさが抜けきっていないようだ。
「ベティこそ。興行試合に誘ってくれるなんて珍しいね」
「それがチケットを貰ったはいいんだけど、ペアチケットで……今の配属先じゃ相方はいないし、だからといって1人で行くのも寂しいかなって思っただけ」
　チケットの送り主はサリーだった。受け取ったのは3日前、フジに同行を頼んだのは2日前。急な用件にも関わらず、フジは快く受け入れてくれた。
「意外。勝手な想像だけど、ベティは仮にラーメンの屋台に1人で入ることになっても戸惑わないタイプだと思ってたのに。人が多いところは苦手なんだ？」
「勝手に決めつけるなよ！　うどん屋台には1人で入ったことあるけど……いい席だったんだよ、SS席。ぶつかり合いを間近で見られるなら友達を呼ぶっきゃない、ってね。しかも復活試合と来た」
　フジが何気なく見たポスターには、『マーカス・グレイシー復活！』と大きく印刷されていた。

　ベティとフジはベティが残像領域に迷い込んで以来の付き合いだ。2人はベティが初めてハイドラライダーとして配属された民間軍事会社で出会い、相方として半年程度共に暮らしてきた。そこでの生活は戦力となれば性別なんて関係ない、という考えの人間ばかりだったこともあって最悪なものだったが、数少ない女性傭兵同士ということですぐに打ち解けあい、任期が満了した後もお互いに連絡を取り合うほどだった。更に2人にはマーカス・グレイシーのファンという共通点もあった。ベティがフジをこの復活試合に誘ったのには、寂しかったから以外にもちゃんとした理由があったのだ。
　当時のフジは武器を積まず、不可思議な現象だけで戦おうとするタンク乗りだった。彼女は奴隷出身ということもあって本来傭兵として採用されるような人間ではなかったが、訓練生時代に霊障にずば抜けて高い適正があると判明したことと、彼女の主人が多額の資金を提供したことにより即戦力として異例の抜擢を受けた……そんなことを、相手の術導肢を何対も取り付けたWHを見ながらベティは思い出した。いつの間にか彼女の脳内で霊障=よくわからない（あるいは奇っ怪な）ものという方程式が出来上がってしまったのも、このフジの超適正による霊障攻撃の威力を日々目の当たりにしていたせいである。

　席に付き売り子から飲み物を買うと、鞄の中のタブレット端末が震え出した。すかさず取り出して何事かと確認する。
「どうしたの？」
「チケットをくれた人からメールが来た」

＞差出人：サリー・ハイズマン
＞件名：（無題）
＞-----
＞やっほー！　今控室！　ちゃんと来てくれた？
＞実は今回の試合が実現できたのはベティのお陰なんだ。ベティのことを話す以外にも、ライダーについて語るスレッドの該当レスを見せたりとかしてたらかなりかかっちゃった。それでも、あいつが考えを改めてくれたのは事実。本当に、ありがとね。

――あの人がもう一度サリーと一緒に、戦場を駆け回ってるのを見ることできるのかな。
――できると思うよ！　あたしから呼び掛けてみよっか、マーカスの戦いが見たい知り合いがいる、って？
「……そこまでしてくれなくても良かったのに」
　ラモラック社でサリーと初めて会ったとき口にした言葉を思い出す。ベティの目には自然と涙が溢れていた。

　……そして試合開始のゴングが鳴る。
「マーカスさーん！　ねえベティやっぱマーカスさんはマーカスさんだったよ！　凄い人ってブランクあっても現役当時のまんまなんだね！」
「ああそうだね！　でもちょっと声小さくしてくんないかな、耳が痛……そこだーっ！　サリー後ろーっ！」
　ベティも、フジも、無我夢中で2人を応援していた。

　アイテム24番「噴霧ノズル60」[60/噴霧/---]と27番「避雷針65」[65/耐電/---]を消費して
　腕部A[火炎]をベースに重量拡張を20で作製！
　パーツ名は「ブラックドッグ改」に決定！