断末魔の悲鳴を上げるタケツグを尻目に、西垣はボロボロの身体をひきずって
スロープを駆け上がっていく。足跡には鮮血がくっきり残り、血だまりを作っている。

西垣の体はだいぶ前からもう限界で、溜め込んだ執念で己を無理やり動かしていたのが
タケツグを殺したことで執念の糸が切れ、朦朧とした意識を繋ぎ止めきれず
とうとう、自らの血で足を滑らせて倒れこんでしまった。

「先輩っっ！！ああ、先輩っ、岡崎さぁーんッ！居ました、先輩、ここにいッ」
「ビスコォ」

ビスコは浅い呼吸を繰り返しながら、どこか他人事のようにその声を聞いていたが
やがて駆け寄ってきた２人の人影に抱え上げられて、かろうじて意識を取り戻した。

「ビスコっ、お前、勝ったんだな！！お前、畜生…無茶しやがって、こんな！！」
「おか、ざきさん、」
「先輩だめです、喋んないで！これ、破片が身体中に…！」
「にげ、ねーと、はやく…まいたん、だ、菌、あれ、タンクを」
「撒いた…松茸のタンクを破裂させたのか！あれを使ったんだな！？」
「あがって、くる、菌が…はや、く」
「わかったッ！！ヤマノ、治療はあとだッ」

岡崎の屈強な肉体が西垣を抱え上げて駆け出し
倉庫の入り口の瓦礫を跳ねのけて、外へ飛び出した。

「岡崎さん、あれッ、あれ！！」

駆けながらヤマノが指差す方を岡崎が振り返ると、倉庫の壁のいたるところから
巨大な松茸が生え出し、屋根を突き破っている。
圧巻の光景だった。

「くそっ、菌が広がるほうが早い。
　こりゃお陀仏だな！ヤマノ、辞世の句、３人分頼む」
「冗談でしょーーーーッ！！！やだあああ！！！そんな死に方あ！！」

山の地面を食い破って迫る松茸の群れ。
西垣は口のマスクをちぎるように外すと、最後の力を振り絞って大声で叫んだ。

「アクタガワーーーーーーーーーッッッ！！！！」

わずかの間をおいて、キャタピラが土を踏む轟音があたりに響き、
朝日をバックにした巨大なシルエットが、倉庫の向こうから飛び出してきた。

「アクタガワ！？あれがかっ」

枯れ木を、倉庫を、松茸の群れを轢き潰しながら
アクタガワはとてつもないスピードで突き進み、その腕で３人を抱き抱えた。
走りながらミサイルを捨て、焼夷砲を、バズーカを、機関砲を投げとばし
丸裸になったアクタガワは、ブーストを焼ききれんばかりに噴かし、オガミ山を駆け抜ける。

オガミ山を下りきり、しばらく突っ走って
やがて、全ての燃料を吐ききったアクタガワは、そのまま前につんのめって転がり
６度、回転したあと、隕石のように地面を削りえぐって、とうとう煙を吹いてそこで止まった。

３人は、それぞれ煤だらけの顔でアクタガワから這い出し
呆然とした顔でその場にへたり込んだ。

「…やったな、アクタガワ。無敵の、コンビだぜ！俺達は」

そう言って歯を見せる西垣に、アクタガワの目が光り、ウインクするように答えた。


「すっっ、ごぉぉぉぉい…」

呆然と立ち尽くしてつぶやくヤマノを見て、西垣と岡崎も並ぶように立ち、視線の先を見上げた。

禿げ上がっていたはずのオガミ山の中心には、巨大な城のような松茸が、空を覆うように傘を広げてそびえ立ち、朝日を隠している。
それを囲うようにして、大小さまざまな松茸の群れが、もとの山肌を覆いつくさんばかりに、なだらかな斜面に沿って延々と続いている。

その、この世ならぬような荘厳な光景に、３人はしばらく瞬きも忘れて、その場に立ち尽くしていた。