「作戦終了。離脱する」
　婆さんは淡々と無線を送り、踵を返した。俺は横たわる無人機に花束を投げ、棺を閉じて動き始める。
　衝撃吸収材に伝わる微弱な震動を聞きながら、想像以上に押し寄せた感情を俯瞰する。
　深く吐いた煙草の煙は、レーダーの光を霞ませ、棺を柔らかい緑に染めた。

　＊　＊　＊

「ほれ」
　夜で静まり返ったガレージをシードルビールの缶が飛ぶ。アンナはそれを受け取り怪訝な顔でこちらを見、作業机につく。
　俺は対面に座り、安物のラガーの缶を開ける。窒素ミストが白く漂うのを手で払って一口。
「……祝い事なんだから一杯くらいやれよ。今日はもう上がりでいい」
「はあ。じゃあ頂きます」
　アンナは長い爪でプルタブを開け、手元のマグに雑に注ぎ、口へ運ぶ。あ、こいつ今少しスッキリした顔したな。

「昔話はよしとくか。俺がライダーをやる理由の殆ど全てが今日片付いた」
　サンダウンには目も顔もないが、しゃがみこんだ姿勢でこちらを見降ろしていた。
「お疲れ様でした。あのパイルの扱いは録画で確認しましたが、ほぼ想定内で安心しましたよ」
「お前の功績でもある、アンナ。オンデマンド・アセンブリングに慣れない俺じゃこうは行かなかっただろうよ」
　鋼鉄の装甲を見上げる。ついこの間までろくでもない構成だった頃が嘘のようだ。
「どうも。……私は忠実にヤクモさんの無茶に合わせただけですけれどね。
残像領域の任務はまだ残っていますが、任期を終えたら無職になるおつもりで？」
　お得意の皮肉についタバコに火を点けようと咥え、二秒固まって箱に戻し、箱をゴミ箱に投げる。
「どうだかね」
　俺はアンナの表情をニヤニヤしながら眺める。不貞腐れたような顔にも、いつも通りにも見える。
「乗るさ。俺にこれ以外の仕事はねえだろう、金ならあるがこんなもん直ぐだ」
「毎日高い女を買って高いホテルへ？」
「使い道は人それぞれだ。それで、お前はどうする？」
　マグを持つわずかに手が止まる。
「ここで働きます」
「……そこで提案なんだけどな」
　親指で沈黙したサンダウンを指す。
「乗れ。三回に二回」
「は？」
「三回に一回は俺が乗る。その間何をやるかは俺がこれから交渉するつもりだ」
「本気で言ってるんですか？」

　俺の口元を見て何かを諦めたのか、アンナはマグの中身をゆっくりと、しかし一気に飲む。
　それを見て俺は、実に数年ぶりに声を出して笑った。